「イル・リコッターロ」のリコッタを使った「リコッタのパスタ」 料理・写真提供 シチリア屋(東京都文京区)

リコッタの魅力にとりつかれ

イタリア料理が好きだった竹内さんは、イタリアチーズをつくってみたいと「白糠酪恵舎」で働き、そこでリコッタづくりを担うようになった。その後、「リコッタを極めるならシチリア」と、岡山県でオリーブオイルを販売する友人のシチリア人のつてでシチリア島へ渡った。

修業に入ったシチリアの工房で、竹内さんは山羊や羊の乳を使ったチーズづくりを学んだ。シチリアのリコッタは、主に羊の乳からつくられる。「山羊や羊とともに野山を駆け、手で乳をしぼる。凝乳酵素も自分で子羊の胃を塩漬けにしてとり出し、自然の菌だけで発酵し、チーズやリコッタができ上がっていく。日々の食卓では、畑でとれた野菜や自家製小麦のパンやパスタとともにチーズをいただく。質素で素朴。けれども、滋味深い。そのようなチーズのありようを目の当たりにし、自然のシステムに溶けこんだチーズづくりに感銘を受けたのです」と竹内さんは言う。

「イル・リコッターロ」のリコッタ・フレスカ(約250g)。イタリア食材専門店「カーサ・アンジェリーナ」(東京都世田谷区)や「イル・リコッターロ」のオンラインショップにて参考小売価格1150円で販売

現在は、工房がある蒜山(ひるぜん)高原のジャージー牛のミルクのよさを引き出したいと、イタリア産ほかの天然の凝乳酵素を使い、牛乳のリコッタのチーズなどをつくっている。「ジャージー牛のミルクは濃厚で、フレッシュチーズがおいしいんです。蒜山高原の冷涼な気候がもたらすこの土地だけの草の味もあるかと思います」

「リコッタのパスタを初めて食べたときは、それは滋味深い味でした」と竹内さん。「リコッタの味わいがよいからこそ、香りや食感に深みが生まれるのだろうな、と」。できたてで湯気を出すリコッタを、茹でたてのパスタにからめたパスタ。現在、竹内さんがつくる「リコッタ・フレスカ」は週80個ほどのみ。チーズ工房本来の少量生産にこだわるリコッタだからこそ味わえる美味が、そこにはある。

つくり方にこだわりながらも、食べ手の財布に負担をかけないようにする「白糠酪恵舎」と、少量生産にこだわる「イル・リコッターロ」。どちらの工房のチーズもイタリアで学んだ手法を日本の風土の中で再現した本格派で、その味わいは深い。

中村 浩子
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。著書に『イタリア薬膳ごはん』(共著)『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』(共訳)『スローフード・バイブル』。

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