飛行機事故で亡くなった直木賞作家、向田邦子の作品が好きで、「向田邦子研究会」にも属している。同研究会が没後40年を記念したエッセー募集に、再び応じるにあたり、事前に「小説の書き方」など出版社が主催するセミナーで学び直しをしたことが、作家デビューする上で一大転機となった。これまでも文章は書いてきたが自己流だったこともあり正直、誰からもほめられたことはなかった。向田ファンが数集う研究会のメンバーならば、「名文家も少なくないだろうから、自分も恥ずかしい思いはしたくない」。そんな思いが背中を押した。21年秋のことである。
新型コロナウイルス下で、セミナーは対面ではなく、資料をダウンロードして学ぶ自学形式だった。出版社が主催する複数の同種セミナーを受講した中、幻冬舎の自費出版ブランド・幻冬舎ルネッサンス新社(現・幻冬舎メディアコンサルティング・ルネッサンス局)から小野さんに電話がきた。「仕事中だったので、『折り返します』といって切りました。一段落した後、『そういえば』と思い出し、かけ直さなければ、作家デビューすることはなかったのでは」と小野さんは笑う。
かけ直した電話で、幻冬舎ルネッサンスの担当編集者はセミナー受講のお礼とともに、「これまでどんな作品を執筆してきたか」を聞いてきた。小野さんは、以前ボツになった物語「王子と王女の強いもの探しの旅の物語」を送った。その原稿をもとに担当編集者のアドバイスを受け、主人公である年齢の違う5人の王子と王女を「5つ子」とするなど設定やストーリー展開を大幅に変更した上で、加筆・修正を実施。子供向けというよりも、親子で楽しめる平和を考える物語に仕立てたのが「二十世紀のおとぎ話」である。

日常の忙しさにかまけていると、電話をかけ直すことすら忘れてしまいがち。だが、小野さんは違った。自分からアクションを起こすのをモットーにもしており、銀行の支店長時代には、支店の外に出て、取引先などを足しげく回るようにしてきた。そこで耳にしたことを、次の仕事に生かすために。
「新しもの好きだが、あきっぽいのが難」とも自己分析する。パソコンやケータイ、スマホやタブレットなど新たな機器が世に出ると、いち早く購入。最新の機能を自分なりに試してみる「ガジェット好き」とも自称する。
趣味の映画音楽とジャズ好きが高じ、自らピアニストやジャズシンガーなどに出演交渉し、自主企画したミニライブを07年以降、定期的に開催。小野さん自らマイクを握り、作詞した曲を熱唱したこともある。「これは」と思ったミュージシャンには自分から積極的にアプローチし、出演協力をとりつけることもいとわない。そんな前向きな姿勢が、新たなチャンスや経験へとつながった。