「二十世紀のおとぎ話」を読むと、様々な背景が要素として浮かんでくる。3人の王子と2人の王女に、祖父である王様から「自分が考える世界一強いと思うものを探してきて教えてほしい」というミッションが下る。5人は各国を渡り歩き、最強と考えるものを見つけてくるが、強いものにも必ず弱さを兼ね備えており、最終的な「本当の強さ」とは何かを考えさせられる。内容は深い。
出版に向けて加筆・修正していた時期は、東京五輪・パラリンピックの開催やロシアのウクライナ侵攻が起きた時と重なる。小野さんによると、憲法をテーマにした映画の存在やこれまで読んできた本、ユネスコ(国連教育科学文化機関)憲章なども今回の作品のモチーフになっている、という。オー・クンケーというペンネームも好きな米国の作家、オー・ヘンリーにちなみ、自身の名前の音読みなどをもじったものだ。
「二十世紀のおとぎ話」は、小野さんがこれまで培った経験や教養・知識を基に執筆されたもの、ともいえる。銀行の基幹システムの更新問題にも携わった小野さんは「問題解決に向けた方法やスキームを一つ一つ考え、組み立てていくのが銀行員の仕事。そこには知識や経験、感性やセンスがモノをいい、創造的な仕事だといえる。その意味で、文章や音楽など昔から何かを創り上げることは個人的に好きだったかもしれない」と話す。まさに「好きこそものの上手なれ」である。
「シルバーエイジ最初の挑戦」と位置づける小野さんは、本1冊書き上げても燃え尽きてはいない。「二十世紀のおとぎ話に出てくる3人の王子と2人の王女の強いもの探しの旅が、どんな波瀾(はらん)万丈に富むものだったかや、王様亡き後、王子と王女たちの王国がどうなっていくのかなど、前編や続編として、書きたい話がまだまだあります」。次なる作品の執筆に向け、執筆意欲は旺盛だ。
「リスキリング」が叫ばれる昨今、「スキルアップや学び直しで、自分が培った知見やノウハウを社会に生かせる方は、まだまだたくさんいると思う。人生100年時代、単なるボランティアではなく、その価値に対価が支払われる形で活躍することは素晴らしいことではないか」。小野さんはそう考えている。
(堀威彦)