昨年12月の全世代型社会保障構築会議の報告書で、社会保障制度や税制は働き方に中立的なものにしていくことが重要だとの指摘がなされた。念頭にあるのは、収入の少ない妻を保険料なしで国民年金に加入させる第3号被保険者制度や、そうした妻を持つ夫に所得控除を認める配偶者控除だ。民間企業でも、これらに合わせ、独自に配偶者手当を支払うところが多い。
こうした制度の適用を受けるために、あえて収入が増えないよう労働時間を調整する、いわゆる就業調整を行う女性が多いことは長年指摘されてきた[注1]。たとえば最低賃金の上昇に伴い、過去25年間でパートタイム労働者の時間当たり賃金は29%上昇したが、その年収の伸びはわずか4%にとどまる。これはパートタイム労働者の総実労働時間が19%近く減少したためだ[注2]。
こうした現状は日本経済にとって大きな損失だ。ただでさえ少子高齢化が進み、深刻な労働力不足にある。加えて、男女間賃金格差の大きさや女性管理職比率の低さは先進国で突出しており、女性活躍の推進は日本経済にとっての大きな課題だ。日本には、女性の就業意欲を妨げるような制度を残しておくような余裕はない。
社会保障制度や税制を働き方に中立にすることは、女性の労働所得を増やし、長期的には税・社会保険料収入を増やすことにもつながる。北尾早霧・東京大教授らは、第3号被保険者制度や配偶者控除などの廃止により、女性の労働所得を最大28%高めるとの試算[注3]を示している。就業意欲が高まり労働参加率や正規就業率が上がるだけでなく、女性労働者の経験やスキルの蓄積が進むためだ。この所得上昇効果は大きく、新たに生じる所得税や社会保険料の負担を上回るメリットがあるため家計消費は平均3%向上する。つまり、国民の厚生を損ねることなく、政府は税・社会保険料収入を増やす余地があるのだ。
