塩野 Aさんは学生時代もアクティブに活動されて、情熱はある方なのかなと思います。一方で、実際に働くとなると、自分が何かの価値を生み出し、その価値がお金になる、それによって食べていけるよっていうのが社会人です。今は色々な働き方ができますが、どんな道を選ぶかというときに、視点として持ってほしいのは、もし自分が上司だったら、自分が面接官だったら、「自分を雇うか?」という点ですね。

YouTuber(ユーチューバー)とか1人コンサルとか、お金の稼ぎ方は色々あるので、30歳まではどんどん転職して色々なことを試していいと思います。ただ、小さなことでも「これはできる」「これはやった」という、結果に基づく自信がないと将来的につらくなるんじゃないかと思うのですが、大室さんはどう考えますか?

大室 そうですね。自信というものは、自分を下から上に支えてくれる力ですが、プライドは上から自分を押さえつける抑圧なんですよね。自信がないのに自分は人と違うという感じで、プライドの方が大きくなってしまうと、だんだんその重さが拮抗しなくなって崩れてしまうという…。

塩野 理想の自分との乖離(かいり)ですね。

大室 多くのビジネスパーソンの現実解としてはプライドの重しを取っていくんですよ。「自分は大したことないんだ、『量産型』なんだ」と。産業医としては、どのような形であっても崩れるより、そのバランスがうまくとれてればいいと思います。

ただ、どれだけ成功した人であっても本当に最後の最後までコンプレックスのせいで自信が持てない人もいます。私の友人に、成功したベンチャー企業の共同創業者がいるのですが、彼は人間的魅力もお金もあるのに、自分には専門性がなくて、宝くじを当てただけっていう思いが拭えないんです。起業家の集まりとかに行くとやっぱり自信がなさそうで、最初に酔い潰れちゃったりするんですよ。

座禅じゃないけど、精神衛生上、プライドや執着を捨てていく方向もありますよ。でも現実路線としてお薦めしたいのは、ポータブルスキルのような負けない武器を持つことですね。

「負けない武器」は場所によって変わる

経営共創基盤・共同経営者の塩野誠さん(写真左)。ゴールドマン・サックス、ベンチャー起業、べイン、ライブドアなどを経て現職。大企業のコンサルティングや北欧・バルト地域でベンチャー投資を行い、フィンランド在住経験がある。著書に『20代のための「キャリア」と「仕事」入門』(講談社)『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』(NewsPicksパブリッシング)など。

塩野 ビジネスにおける「負けない武器」問題は厄介なんですよね。というのも、武器の価値はどこにいるかによって変わる。極端な話、「幼稚園で掛け算できるとすごい」みたいな話で。どこで何を持っているか、その掛け合わせも大事なんです。

人格にしろスキルにしろ、重宝されることは環境によって変わります。そういうものだと思った上で、じゃあポジショニングをどうするかが重要じゃないかと。もしAさんが今後転職とかを繰り返すのであれば、やりたいことを探すとか何かをなし遂げるというよりは、「どこが自分を認めてもらえる心地良い場所か?」をまず考えるのがいいと思います。

ただ、食いっぱぐれないスキルというのは現実として存在します。私がこれまで見る限りでは、それは「会計」と「英語」です。

大室 昔よく(経営コンサルタントで有名な)大前研一さんが、IT・会計・英語は「ビジネスパーソンの三種の神器」と仰ってましたね。

塩野 みんなやれそうで、実際にはできる人が少なくて、日本では英語も会計もずっと価値が高いんです。いま経理部って大企業からスタートアップまで人不足で、いくらでも採ろうとしているんですよね。DX(デジタルトランスフォーメーション)やなんやかんやと言っても、みんな期末で締めないといけないので。

ただ、Aさんも言及されているITスキルについては難しくて。というのも、非常に幅が広くて、なおかつ一個一個がものすごく深いんです。例えばiOSアプリのプログラミングなら得意ですと言っても、サーバーサイドの作り込みはどうなのという話になる。その中で今後必要なスキルは何か、やはりデータサイエンスに使う「Python(パイソン)」やっとくかとなりますが、変化のスピードが早いので、終わりのない戦いにもなっています。

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