感謝はされたが利益を生めず

障害者領域で起業しようと決めたのは、家族の存在があったからだ。生まれつき染色体に疾患があり重度の障害を持つ、10歳年の離れた弟がいる。成長するにつれ歩けるようにはなったが、今でも言葉をほとんど話せない。そして誰かがいないと1人では何もできないため、常に母親が付き添っている。

そんな姿を身近で見てきたため、関心は自然と重度障害者とその周囲の人々に向いていた。「弟が何かやりたいと思ってもできることは限られているし、母親の育児負担も本当に大きい。弟のような重度の障害者が幸せになるようなプロダクトを作ろうと思ったんです」

すぐに事業の方向性を固めて起業できたのには、NPO法人エティック(東京・渋谷)が運営する学生起業家育成プログラム「メーカーズ ユニバーシティ」への参加が大きかった。小川氏の勧めで存在を知った時は既に締め切り1週間前で、大急ぎでエントリーシートを提出し合格した。周囲に学生起業家の友人が少なく、実務的な相談をしたり愚痴をこぼしたりできる相手がいなかった山本さんにとって、領域や規模はバラバラでも同じように起業を目指す同期と刺激し合えたことは一番の財産になった。

2021年12月には共創アート作品の2度目の展示会が始まった(東京・有楽町の有楽町マルイ)

メーカーズではもう一つ重要な出来事があった。学習塾「花まる学習会」代表でエンジェル投資家でもある高浜正伸氏との出会いだった。高浜氏は「山本君は『俺はやれるに決まっている』といった感じで、やたら強気だった」と当時の印象を振り返る。山本さんの会社に投資を決めたのも「彼は弟のことが芯にあって本気で障害のある子どもたちのことを考えていたし、無責任にあっさりと人を裏切るタイプではない」と人間性を見込んだからだ。

投資が決まると山本さんは、すぐさま会社を設立。その3か月後には慶大生1人、東京芸術大学の学生2人を集めて事業を始めていた。実は「僕自身はアートに興味はないんです」と明かす。コンテンツをアートに絞ったのは「障害を持つ作家の作品を商品化する『ヘラルボニー』が話題になるなど、すでに社会でコンセンサスが取れていたから」という理由だった。

好きなだけ絵の具を使い自由に絵を描くイベントでは、参加した障害児の親から「こういう場所が欲しかった」と感謝され、「起業をしてよかったと心から思えた」。しかし場所代や人件費がかさみ、利益を出すまでには至らなかった。そこで今、力を入れているのが「共創」アートだ。子どもたちの描いた絵を芸大生がコラージュして新たな作品を創出。それを社会に広く発信して、販売で得た利益を教室の参加費に還元するというビジネスモデルだ。

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投資家からの「好きにやっていい」が支えに
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