スーツスタイル 手本は国連事務総長
――スーツスタイルで影響を受けた人はいますか。
「かっこいいな、と思う人はいますよ。たとえば映画『007』の(ジェームズ・ボンドを演じた)ダニエル・クレイグ。(原作者の)イアン・フレミングのオリジナルボンドに近いと聞いていますが、彼が鍛え上げた体にトム・フォードのスーツを着ているのはかっこいい。ただ、あれは『なれない人』。でも先日、中学生の息子と『007』最新作を見に行ったら、息子に、パパが目指しているのはこういうのなんだね、って笑われました。オーバーサイズの服ばかり着ている息子にとっては、父親が着ているスーツはギャグ以外の何物でもないみたいです。周囲にスーツを着る大人がどんどん少なくなっていますし」
「スーツの着方ということに限定すると、私にとっての一番は国連事務総長だったコフィー・アナン氏。私は96、97、98年とニューヨークの国連日本政府代表部で働いていて、当時はまだスーツのことをよく知らなかったのですが、アナンさんのスーツは一目見て、すごくきれいだなと感じていました。しわ1つなく、お尻にかかる上着のラインもネクタイも完璧。ブリオーニの仕立てでした。最近知ったのは、事務総長になるからにはブリオーニぐらい着てください、と周囲に言われて作っていたそうです。私が見た時はテーラーにアドバイスされるままに着ていた、最初のころだったのでしょう」

――威厳を表す服の力恐るべし、というところでしょうか。
「でも、私はどちらかというと、たかが服というスタンスなんです。服を下に見ているわけでもないし、服が好きなのも明らかなのですが、自分にとって装いは、大きい男は小さい服は着ない、小さい男は大きい服を着ないという、その一言に集約される。サイズが適度に合ったものを適度にきちんと着る。そこを押さえていれば人が何を着ていようが自由」
――たかが服、されど、という部分はどうですか。エグゼクティブになればその人の格に合う服が必要ではないかとも思うのですが。
「その場合はまさに、際立つ、のではなく、あえて何も気づかせない、ということが大切なのではないでしょうか。『すれ違った時に振り返られたらだめ。それは何かスタイルで失敗している』という話がありますよね。さりげなさに執拗なまでにこだわること。社会的な地位が高くなればなるほど、過剰な装飾などせずに際立たない。ただ、すっと、スタイルや体形に合ったものを着る、ということが非常に重要になってくる気がします」


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