女性の賃金、部長級でも男性の83%

性別による賃金格差の是正は世界共通の課題だ。女性の賃金は経済協力開発機構(OECD)平均で男性の88%にとどまり、日本は78%とさらに低い。背景の一つとして宿泊・飲食など比較的賃金の低い職種に女性が多く従事していることがある。家事・育児負担が女性に偏っている現状が女性のキャリア形成を難しくしているとの指摘もある。

さらに、同一職種や同じ境遇で比較しても賃金格差が浮かび上がる。保育士で同じ勤続年数でも男女の賃金には差がある。単身世帯で年収を比較しても、各年代で女性は男性より低い。

産業別では女性が従業員の半数以上を占める金融・保険業で男女の年収差が大きい。役職別では部長級でも女性の年収は男性の83%だ。厚生労働省は役職と勤続年数、労働時間など7つの要因を調整してもなお、解消されない賃金格差が存在するとしている。

意図しない格差を是正するため、各国は男女別の賃金データの開示や格差の原因分析を義務付ける。例えばフランスは年齢区分および役職ごとの平均的な男女間の賃金格差のほか、昇進した男女の比率の差など5つの指標を点数化し、一定の基準を下回った場合は3年以内に適切な是正措置を講じることを企業に求めている。

「やるべきは組織構造の改革」

日本は1999年3月期まで有価証券報告書に男女別給与を掲載していたが省令改正によって廃止された。今後、多様性確保などの観点から6月にも開示に関する新たな方針が示される見通しだ。

ソフトバンクはいち早く賃金格差解消に向けて年1回の情報開示を始めた。20年度の非管理職の基本給+賞与は男性が女性を2割上回っていた。同社では役割と実力・実績に応じて等級を決定し仕事の成果に報いる男女同一体系の報酬制度を導入している。現状の差は等級の高い人に男性が多いことが一つの要因として、女性社員向けのキャリアに関するプログラムなどに取り組む。

経済分野で主要な役割を担う女性の増加を目指す民間アライアンス「G20 EMPOWER」では、賃金格差の解消に取り組む各国企業の好事例をまとめている。アキレス美知子日本共同代表は「日本では賃金差の理由として勤続年数の違いを挙げる企業は多いが、なぜ短いのかを深く分析し、改革する企業は少ない。賃金格差は表に見える課題の一つであり、やるべきは格差を生み出す組織構造の改革だ」と指摘する。

■透明な人事評価制度を
コンサルティング会社、識学の調査によれば、上司のひいきによって不公平を感じたことがある社員は約4割にのぼった。不公平を感じる場面は「実際の成果に対して上司の評価(査定)が高すぎる」(56.9%)が最も多い。一方、管理職の約半数が「かわいがっている部下・後輩がいる」と答え、その理由は「素直な性格だから」が6割だった。

性別にかかわらず、報酬や昇進について透明性と納得性がなければ社員のモチベーションは下がり、優秀な人材が流出するリスクがある。特定社会保険労務士の大槻智之氏は「求める役割やスキル、成果を明確にした人事評価制度を整え、定期的に上司と本人が擦り合わせることが大切」と話す。
(編集委員 中村奈都子)

[日本経済新聞朝刊2022年5月23日付]