飼料作物から食用へ、さらに健康食品へ

オートミールはエンバクを食べやすく加工したもの

さて、そもそもこのオートミールとは何なのだろうか。

オートはoatで、日本ではオーツ麦とも呼ばれるが、エンバク(漢字では燕麦)のことだ。それを食品として加工したものがmealの付くオートミールとなる。

エンバクが作物として栽培されるようになったのは紀元前ではあるものの、小麦よりもずっと後だったとされている。もともとは麦畑の雑草のようなものだったが、栽培のしやすさが注目されたようだ。というのは、麦を含むイネ科の植物では、せっかく実った実が収穫前に落ちてしまう性質(脱粒性や脱落性などという)がしばしば問題になるところ、エンバクはそうなりづらい。

それで栽培が始まったが、それは食用よりも、主に家畜の餌や敷きわらとして利用するためだった。

食用としなかった理由は味や粒の性質などいろいろと考えられるが、おそらく最も決定的だったのは、エンバクだけではパンを焼くことができないという点だ。実はエンバクはグルテンを含まず、イーストを使って気泡を作ってふっくらと膨らませるパンにすることは難しいのだ。

しかし、食べられないわけではないから、食べるための工夫もされるようになった。そこで、まずひき割りにして吸水しやすくした。これを30分ほど煮ると粥(かゆ)になる。さらに工業的に成功したのが、ロールド・オーツというものに加工することだ。これは蒸気で加熱した後で平らにつぶす、圧ぺんという工程を経たものだが、この方法は麦ご飯に使う押し麦(原料は大麦)でも行われる方法だ。これは煮込む時間が5分程度とだいぶ短縮される。今話題のオートミールのほとんどは、このタイプとなる。

さらに、より薄く圧ぺんし、しかもカットすることで、お湯を注ぐだけで食べられるようにしたインスタントタイプもある。ただ、これの場合は湿気やすいという点が欠点となり得るので、湿度が高くなりがちな日本ではあまり扱われていなかったようだ。

しかし、包材がこの欠点をクリアした。ペプシコジャパン(東京・渋谷)が米国では有名なオートミールブランド「クエーカー」のインスタントタイプを18年に日本で発売したが、この製品は日本向けに湿気を防ぎやすいスタンドアップパウチ(チャックの付いた袋で底にマチがあって自立するもの)を採用したものだった。

クエーカーは米国のオートミール老舗ブランド。日本向けにチェック付きパッケージ版を開発した

そして、最近スーパーマーケットなどにも並ぶ各社のオートミール製品は調理時間の短いもの、つまり湿気やすいはずのものが多いが、それらの多くもやはりスタンドアップパウチを採用している。包材の工夫によって、今まで身近でなかった食品が扱いやすくなり、より多くの食べ物を楽しめることにつながる。オートミールのブームは、そうした例の一つとも言えそうだ。

また、前述のようにグルテンフリーであることで、グルテンを食べることができない人も選択できる食品として欧米で見直され、そこから、話題の食品と見られるようになり、日本の消費者の興味を引きつけたという経緯も考えられる。

さらに、健康面での長所は、何と言っても食物繊維の多さだろう。コメはつくことによって、完全に白い粒を得ることができる(搗精:とうせい、という)。しかし、麦類は実の内側に溝(縦溝部という)があって、そこに消化できない部分が残る。小麦の場合はしかももろいため、食べるには粉にひいてしまったほうが手っ取り早いということになる。

しかし、大麦やエンバクは割れにくさもあるため、押し麦やロールド・オーツに加工して利用される。すると、縦溝部はそのまま食物繊維となって残るということだ。コロナ禍のなか、抵抗力には腸内フローラも影響があり、それには食物繊維が大切と聞く機会が増えた状況で、オートミールはその点でも注目されたと言えるだろう。

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