量の整備から質の改善へ 求めたい「保育のゆとり」
――一時期と比べれば待機児問題は改善が進みました。保護者の視点で望むことは。
普光院 子どもによって、立ったり歩いたりできるようになる時期が様々であるように、人は1人ひとり発達も異なります。そうしたところにも目配りしながら、子どもたちが伸びやかに育つ環境とするうえでは、何よりも保育の現場にゆとりがあることが大切だと考えます。
国には「0歳児は3人に対して保育士1人」といった年齢別の保育士の配置基準があります。ただし、国基準の配置では、保育所保育指針が示す保育はできないと指摘されていて、過去に国の子ども・子育て支援新制度の検討の場でも取り上げられました。結果的には財源の問題を理由に3歳児以外の改善は見送りとなりました。
私たちが調査した100市区では、国基準を上回る配置を取り入れている自治体が22年度で85市区ありました。たとえば「児童6人に対して保育士1人(6:1)」となっている1歳児の場合、埼玉県や神奈川県には4:1や4.5:1としている自治体が多く、新潟市は3:1にしています。
ただし、これらは財政的に比較的裕福な都市部の自治体が多い100市区で見た数字です。全国ベースでは国基準の配置の自治体も多いはずです。保育士の配置を手厚くすることは財源の問題もあり簡単なことではありません。けれど、少子化だからこそ1人ひとりにお金をかけて質の高い保育を提供できるはずなのです。量の整備から質の改善へ、保育を巡る中心課題は変わりつつあります。保護者の立場としては現場の保育のゆとりが地域差なく保たれる状況になることを望みます。
いまは「0歳児が7人」という場合の、保育士のカウントの仕方も自治体による差が目立ちます。「本来の設置基準は3:1だから、子どもが7人ならば2.33人」と計算した後、切り捨てで2人配置とする例もあれば、切り上げで3人とする例もあるからです。22年度から、この点も調査項目に取り入れていくことにしました。
育休の延長と認可の申請、合理的な制度設計に

――調査から、認可の利用を希望して入れなかった子どもの人数をみると、保護者が育休中というケースの増加が目立ちます。
普光院 ここには「認可入所がかなわず、やむなく育休延長になってしまった」という場合だけでなく、一部かもしれませんが育休の延長を望む人がその手続きに必要となる認可の「不承諾通知」を受け取るために申請したケースも含まれています。
育児・介護休業法では、育休の取得は原則として子どもが1歳に達するまでです。ただし、「保育所に入れなかった」など一定の事由がある場合は、最長で2歳まで育休を延長できることになっています。
企業によっては、「育休は3歳まで」など法より長く取得できる例もあります。ただし、そうでない職場も多く、いまはコロナ禍が不安で育休延長を望む家庭もあると思います。その場合、現在の仕組みだと認可の「不承諾通知」がないと育休を延長できないとあって、「入園のため」ではなく「延長のため」に申請するといったケースも出てきてしまうという訳です。
それが育休中の人の何割を占めるかは把握できていません。ただし、そうした本来の目的と異なる入園申請が生じるのは、自治体の事務手続きの負担増という点でも好ましくないと思います。
子育ては日々のこと。保護者が自分たちの納得がいくようにできないと後々、すごくしんどくなってしまいます。育休延長の希望に対して「復職への意欲や責任感が足りない」という声もあるかもしれません。けれど、少子化対策も待ったなしです。男女ともに家庭にもう少し時間をかけられる生き方を認める社会にしていくことが必要ではないでしょうか。
育休延長のニーズが多いようであれば、延長した場合の育児休業給付金の在り方や入園申請を巡る自治体の事務作業の軽減も含めて、より合理的な制度設計が検討されていいと思います。
保護者の納得感という点では、「特定の保育園等のみ希望」という層が一定数いることも気がかりです。子どものために選んだ結果、「希望の保育を利用できなかった」という人が一定数いるのであれば、既存の施設などの何がニーズに合わなかったのか、安心・安全や保育時間などについて検証することも必要ではないでしょうか。そのうえで、地域の保育環境の整備を進めてほしいと思います。
(佐々木玲子)