「このチームはこの監督が就任したことでどう変わったのか、ということを伝えようとするなら、何カ月、何年という期間で見続けなければいけない。当然、取材や下調べにも相当なエネルギーを使うわけです」。メディアの仕事は放送1本ごとに評価される。地上波、CS放送とメディアの環境が変わる中で、異なる視聴者層のニーズに応える解説を模索する日々が続いた。

全国58のクラブ訪問 地域の「仲間」増やす

すると13年、思いがけず、北海道コンサドーレ札幌の運営会社、コンサドーレ(当時は北海道フットボールクラブ)の社長に引っ張られた。「北海道ではとにかくコンサドーレを露出することを考え、ホームゲームはほとんどの試合を生中継してもらえる体制になりました」。大事なのはサッカーがその地域を代表するシンボルになること。22年3月、Jリーグチェアマンに就任してから、その思いは一段と強まった。

コンサドーレ社長時代にスーツを着る機会が増え、「クラブのカラーが赤なので、黒っぽいスーツにしてボタンホールを赤にするなど、どうやったらスーツで気分が変わるかなとチャレンジするようになりました」。チェアマンになってからはスポンサーや官僚と会うときに着用し、「スーツがより特別な存在になってきました」 撮影:筒井義昭

「サッカーは強い弱い、J1かJ2か、ということだけではなく、クラブがそこにあるだけで、地域に貢献できることも、人を幸せにできることもたくさんあります。コンサドーレなら北海道民の8割、9割が応援している。いわてグルージャ盛岡だってもっともっと強くなって岩手のグルージャファンを増やしていける」

全国ネットで試合が放送され、華やかなチームがファンをつかんだのが昔のJリーグ。だが今では、かつてに比べ東京の地上波では試合の露出が激減した。一方、地方ではいまだにローカルのテレビ局での露出はしやすい。クラブのある地域でいかに仲間を増やすかがリーグの発展には不可欠だ。だから自らもせっせと全国に58あるクラブを回り、サポートしてくれる企業を巻き込み、その地域の課題解決を一緒になって考える。コンサドーレ社長時代に経験した「選手がすごくいいパフォーマンスをして、札幌ドームが満員になって、そこにいる人たちの熱量が最高で……という一体感の中で結果が出る。そんな『作品』を毎週末各地で何回作れるかが勝負です」。

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