本谷有希子 コンテンツ化する世界で生きる人間を描く

日経エンタテインメント!

「すべてがコンテンツ化していく世の中を、『面白い』と思って見ていた」と、本谷有希子は言う。情報に翻弄され、AIに支配されていく社会に「警鐘は鳴らしたくないし、説教もしたくない。ただただ、更新されていく人間の姿を捉えることができたら」

「母親、子ども、社会――人間をシステマティックに更新させていったらどうなるのか、それを想像していく作業は、スリリングでした」

3年ぶりの新刊となる『あなたにオススメの』におさめた2編の中編で描くのは、子育てや災害すらもコンテンツとして貪欲に消費しようとする人間たちの、テンション高めの日常。『推子(おしこ)のデフォルト』の舞台は、ほとんどの人が右手の甲にICチップを、耳たぶにはイヤホンを埋め込み、網膜にディスプレーをかぶせ、新しい通信機器〈須磨後奔(すまあとふぉん)〉で複数のアプリケーションを同時に視聴する近未来。そこで、子どもたちは早期からネット漬けにされることが推奨されている。推子はその新しい価値観にあっさり順応したが、同世代のママ友は、子どもにデジタル機器を与えず、公園で遊ばせるオフライン志向。あらゆるエンターテインメントを貪ってきた推子にとって、前時代的なこのママ友親子は、生の、ナチュラルな、たまらなく愉快なコンテンツなのだった。

「人と話している時やテレビを見ている時など、ふとした瞬間に、『なんか気持ち悪いセンサー』が働くことがよくあって。『推子~』は、ある知人がつぶやいた『これからは全部コンテンツにしていかないと』という言葉が気になり、もう1編の『マイイベント』は、『シェア』という言い方がセンサーに引っかかって。ここに小説が在るな、という予感がするんですよね。ただどう書いたらいいかがなかなか見えないので、時間はかかるのですが。私はいつも、その『なんか』という3文字を、小説にしているんだと思います」

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極度にポジティブな人々を書く
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