フランスの魚卵事情

さて、筆者の住むここフランスでも魚卵は食べられているが、バリエーションは日本ほど多くない。ただ、日本では入手しにくいカラスミ(ボラなどの卵巣を塩漬けしたもの)や、キャビア(チョウザメの卵巣をほぐしたものの塩漬け)といった高級魚卵は、値段は張るが比較的入手しやすいように思う。

キャビアはクリスマスのような特別な日にいただく

一方、生のタラコや明太子といったいわゆる「日常の庶民向け魚卵」は、アジア系のスーパーで冷凍状態で売られてはいるものの、そう簡単には入手できない。

フランスでよく見かけるのは、「タラマ」と呼ばれるタラの卵にクリームなどを加えてディップ状にしたもので、アペロの定番として人気がある。がしかし、私が食べたいのはこれではない。タラコパスタや明太おにぎり……。つまり、クリームなど不使用のシンプルな生のタラコや明太子なのである。

どこのスーパーでも売られている「タラマ」。パンやブリニ(ソバ粉入りの小さいパンケーキ)の上にのせて食べる。

そんな生タラコ欠乏症な筆者が愛用しているのが、SNSでミラノ在住の方から教えてもらったロシア系スーパーに売られているタラコ缶。缶詰だが冷蔵状態で売られており、缶詰の蓋を開けると、そこにはみっちりと詰まった淡いピンク色のタラコがお目見えする。あまりのおいしさに感動して、筆者自身もSNSで発信したところ、その後パリの日本人コミュニティに広がったのか、一時品切れ状態になったシロモノである。

筆者愛用のロシアンタラコ缶。

ロシア語に精通した知人によれば、この缶詰のパッケージには「イクラ」と書かれている。そしてロシアでは魚卵全般をイクラと呼び、色を表す形容詞で区別するのだという。きっと日本の「イクラ」の語源はここにあるのだろう。

ロシアンタラコ缶で作った絶品タラコパスタ

自作明太子を作ってみる

このロシアンタラコ缶さえあれば生タラコ生活は事足りるのだが、ここですまないのが料理狂の筆者である。まだ寒いけれど春の兆しが少しだけ見え始めるこの時期のマルシェ(市場)で、運命的に彼らに出会ってしまった。そう、無造作に積み上げられた魚の卵らしきものたちに。

マルシェの鮮魚店にて見つけた魚卵らしきものたち

とっさに働く我が魚卵センサー。お店のムッシューに興奮気味に話しかけると、やはりこれは魚卵だという。さらにこう教えてくれた。「この魚卵たちは1月から3月までしかとれないからとても新鮮だよ! 時期を過ぎると卵が成長して稚魚になってしまうからね」

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フランスで自作明太フランスにチャレンジ!