
名中国料理店が軒を連ねる東京・西麻布エリアに、また一つ注目の新星が現れた。西麻布交差点から南東方面の路地を入った、閑静な住宅街の一角に2021年6月にオープンした「Ji Cube(ジーキューブ)」だ。
一見住宅にも思える四角い一軒家の玄関を開け、すぐ手前の階段を上るとそのまま個室が3部屋完備された2階にアプローチできる。お忍び利用でも安心の造りだ。
庭の小路を抜けテラス席を横目に進むと、厨房を囲むように設けられた1階のカウンター席にたどり着く。店内は1、2階ともに赤と黒を基調にしたスタイリッシュな雰囲気。テーブルの朱色は四川料理の要(かなめ)とも言えるトウガラシを吹き付けて色付けしたという。
ちなみに「Ji Cube」という中国料理店らしからぬしゃれた店名は、店の立地するエリアがかつて「笄(こうがい)」という地名だったことに由来する。「笄」は中国語で「ジー」と読む。この「ジー」に、店の建物がキューブ型であることからキューブを足し「Ji Cube」という粋な名前がつけられたのだ。
こちらの店で腕を振るうのが、25年以上四川料理の道を歩んできた佐々友和さん。熊本県出身の佐々さんが料理の道を志したきっかけは、ホテルのフランス料理店でシェフを務めていた父親に「九州で自分の店を開くなら中国料理がいい」と薦められたのがきっかけだった。
独学で調理師免許を取得した後は、東京・赤坂の「四川飯店」を皮切りに「szechwan restaurant(スーツァン レストラン)陳 渋谷店」で修業を積み、のちに料理長に就任。その後2017年にオープンした「ファイヤーホール4000」でスーシェフとして、中国料理の名シェフ・菰田欣也さんを支えたのち、18年に「ファイヤーホール4000 麻布十番店」の料理長を経て、「4000 Chinese Restaurant」の料理長を務めた。また、第6回中国料理世界大会前菜部門で特金賞受賞(プラチナ)など、多数のコンクールでメダルも獲得している注目のシェフだ。
そんなそうそうたる経歴を持つ佐々さんが満を持して21年6月にオープンした「Ji Cube」。四川料理をメインとしつつも、広東料理や上海料理、北京料理など、旬の食材を使用した中国料理全般を提供している。
「中国料理、とくに四川料理はパンチがきいていて重いイメージがあるかもしれませんが、『Ji Cube』ではコースを一通り食べても食べ疲れない、スッと身体になじむような構成を意識しています。料理も四川料理にとらわれず自分が食べたいものをそろえました」とコンセプトを明かす。
とくにランチコースは点心師が手がける点心を盛り込むなど、辛いものが苦手な人でも親しみやすいメニュー展開にした。

ランチコースは、肉と魚介で構成された「本日の前菜2種」からスタートする。
この日は鮮やかな緑色のネギソースの上に、キャビアがトッピングされた真っ白なアオリイカを合わせた料理。切り目を細かく入れることで溶けるような口どけに仕上げたアオリイカに、全体としてまろやかな味わいながら、ネギの苦味やショウガの辛さ、そしてあとからサンショウのしびれが舌をつくネギソースが季節に合った味わいだ。