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マーケティングや広告関連の新刊を並べた平台に展示する(青山ブックセンター本店)

マーケティングや広告関連の新刊を並べた平台に展示する(青山ブックセンター本店)

本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。今回は準定点観測書店の青山ブックセンター本店に2月に続いて訪れた。来店客の戻り具合は緩やかだが、同店が力を入れている著者イベントの集客は好調で、にぎわいが戻り始めている。そんな中、書店員が注目するのは、マーケティング支援で数々の実績を上げてきた著者が、「実際に事業を成長させているチームが何を考え、どうやっているのか」の言語化を試みた一冊だった。

外部からは見えにくいOSに迫る

その本は山口義宏『マーケティング思考』(翔泳社)。副題に「業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること」とある。著者の山口氏はソニー子会社やリンクアンドモチベーションを経て、企業のブランド、マーケティングに特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース(東京・渋谷)を起業、ベンチャーから上場企業まで100社を超える多様な企業のマーケティングに携わってきた。

著者によれば、「業績を伸ばし続けた企業に共通するマーケティングへの取り組み、チームの人材の要件、業務の進め方といった、外部からは目に見えにくいけれど普遍性のあるOS(オペレーティングシステム)」が存在するという。そのOSを「マーケティング思考」と名づけ、詳細な解説を試みたのが本書だ。

著者はまずマーケティングという言葉がさまざまに使われ、時によっては広告コミュニケーションに限定された、矮小(わいしょう)化した意味で使われることが多いと指摘する。そこで本書ではマーケティングという言葉を「顧客体験にかかわる取り組み業務すべてを指す、広義の意味でのマーケティング」と定義し直す。その上で「成果を出すOS=マーケティング思考」の実際に踏み込んでいく。

マーケティング思考の骨格をなすのは「誰に?」「何を?」「どのように?」という3階層のフレームワークだ。極めてシンプルで当たり前に聞こえるフレームワークだが、全体の入り口となる「誰に?(顧客理解)」でさえ、「適切なターゲットを選び、深い顧客理解を伴って定義できていることすら稀(まれ)」だと著者はいう。

事業フェーズごとの考え方にも言及

マーケティング思考とは、「誰に?」「何を?」の2階層に始まり、3階層目の「どのように?」の入り口部分までを指し、ここまでの思考の質や共通化の度合いがマーケティングの成否を決める。そのOSの土台の上に個別の施策を展開するのがマーケティングの全体像で、OSが弱いと優れた個別施策も効力を発揮しにくく、施策相互の連携や持続的に業績を伸ばすことにつながっていかない。

こうした前提のもと、マーケティング思考が浸透したチームを作るにはどのような共通言語が必要になるか、立ち上げ期、成長前期、成長後期といった事業フェーズごとにどのように考え、何に留意すべきか、どんな落とし穴があるのかなどを詳細に解説する。さらにマーケティング人材の育成・採用についても、その成功法則をひもといていく。220ページとコンパクトな本ながら、表を活用して話を整理していることもあって、何度も読み返してマーケティング思考の理解を深めたくなる内容の濃い本だ。

「2月初めの入荷以来、よく売れている。著者イベントの申し込みも多く、読者の反響が大きい」と、同書店でビジネス書を担当する神園智也さんは話す。消費財などだけでなく、BtoBビジネスやウェブサービスなど、さまざまな業種でマーケティングの必要性が高まっている背景があるようだ。新規事業に携わるビジネスパーソンにも大いに参考になる。

数量限定版刊行で『嫌われる勇気』が浮上

それでは、先週のランキングを見ていこう。

(1)小さく分けて考える菅原健一著(SBクリエイティブ)
(2)冒険の書孫泰蔵著(日経BP)
(3)世界のマーケターは、いま何を考えているのか?廣田周作著(クロスメディア・パブリッシング)
(4)スペクテイター vol.51 自己啓発のひみつ(エディトリアル・デパートメント)
(5)嫌われる勇気岸見一郎・古賀史健著(ダイヤモンド社)

(青山ブックセンター本店、2023年3月13~19日)

1位の『小さく分けて考える』は、問題を分けることで具体化・明確化し、本当に重要なポイントを発見する思考法を解説する。2位の『冒険の書』は2月に同店を訪れたとき、「AI時代の学びを探究 起業家・孫泰蔵氏が思索の冒険」の記事で紹介した本だ。3位の『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』は、22年2月に本欄の記事「次世代のマーケティング像 世界の事例を読み解き探る」で紹介した息の長い売れ筋だ。

4位の『スペクテイター vol.51 自己啓発のひみつ』は、不定期発行の雑誌の最新号。自己啓発について、漫画やインタビューや論考などで多面的に考察している。5位にはロングセラーの『嫌われる勇気』が入った。続編の『幸せになる勇気』と合わせ世界販売が1000万部を突破したことを記念して全面帯を巻いた数量限定版が出たことで目を引いたようだ。今回紹介した『マーケティング思考』は7位だった。

(水柿武志)

マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること

著者 : 山口 義宏
出版 : 翔泳社
価格 : 1,760 円(税込み)

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