モチベーションを維持するため、サロン内で『もくもく会』と呼ばれる勉強会にほぼ毎日参加した。特に講師がいるわけではなく、オンラインでつながった状態で各自が自分の勉強をする自習室的なものだが、時には仲間とコードを見せ合いながら励ましあった。1年以内に就職先を見つけるという目標を掲げていたため、年末年始も返上。ポートフォリオ作りに精を出した。
「エンジニアは誰かの悩みや何かしらの課題を解決するのが仕事です。僕は鉄道会社の不規則な勤務で睡眠に悩んだ経験があったので、睡眠改善を目的とするアプリを作ることにしました」
アプリでは入眠・起床時間、睡眠の質についての満足度を記録できるようにし、2度寝防止のために簡単なミニゲームを解くと起床時間が自動的に記録される仕掛けも作った。その日の体調や「コーヒーを飲んだ」「PC作業をした」など行動のメモも残せるようにし、睡眠の満足度が低い場合はどこに原因があったのかを振り返りできるよう工夫した。
年明けからは転職エージェントに登録し、就職活動を開始。60社近くに応募した。第1志望は、ウェブエンジニア未経験者を対象に、「ペパボカレッジ」と呼ばれる研修付きの採用を実施しているGMOペパボ。3回の面接を経て3月28日、ついに同社からの採用通知を受け取った。
「メールを見た瞬間、やったー!と飛び上がりました。仕事が見つかったというだけでなく、ペパボが第一志望だったので」
面接を担当した同社のminne(ミンネ)事業部 シニアエンジニアリングリードの大和田純さんは、こう話す。
「面接時の印象は『ソフトウエアに関する技術力を高め続けていけそうな人』でした。まず、学習において『自力でやる』と『周囲の助けを借りる』のバランスがよいと感じました。すべてを独力でやろうとすると効率の悪い方法に陥りがちですが、逆になんでもかんでも周囲に頼っていては筋力がつきません。自身の頭と手をしっかりと動かしつつ、先輩エンジニアたちが実践しているよいところは取り入れる、というバランスのよさが目を引きました。ソフトウエアやコンピューターのことが大好きなんだな、と感じられたことも大きかったですね。楽しそうにプログラミングするメンバーは周囲にポジティブな影響を与えますし、楽しめる人の方が継続的に成長する傾向がありますから」
大西さんは5月に上京。約3カ月の研修を経て、8月半ばからハンドメイド作品を個人間で取引できるサービス「minne」の開発チームに加わった。「元車掌」だけあって、朝会での「声の良さ」が話題となり、先日のオンライン飲み会ではリクエストにこたえて「車内アナウンス」も披露したという。

「退路を断ち、1年間収入もなかったので、うまく行かなかったらどうしようと暗い気持ちになったこともありました。それだけに今、スタートラインに立てて本当にうれしい。僕は面倒くさいことが嫌いなので、もっと世の中のいろんな仕組みを便利にしたい。ゆくゆくは開発のリーダーになれるよう、頑張っていきたいです」
駅の通路で偶然目にした「ウェブエンジニアで生きていく」という言葉にハッとしてから3年余り。大西さんは、ついにその第一歩を踏み出した。
(ライター 石臥薫子)