軌道修正難しい強権的支配

ラックマンは、強権的支配には構造的な弱点があるとも強調している。強権的支配では「指導者は間違ったことをしないとみなされるため、議論や批判は封じられなければならない。強権的支配は、最終的には恐怖と強制に頼らざるを得ない」。より開かれたシステムであれば誤りがあった場合、軌道修正できるが、「強権的指導者に隷属する政府がいったん悲惨な政策を採用したなら……ずっとそれを維持し続けることになりかねない」(358ページ)。その過去の典型例が毛沢東の文化大革命だという。

フクヤマ教授は、米欧で仮にこれまでの右派のポピュリズムが衰退したとしても、振り子は中道を飛び越して、左派のポピュリズムへと大きく揺れる可能性を警戒していた。ラックマンも、ジェレミー・コービンが英労働党党首時代に、ベネズエラで急進左派政権を率いたウゴ・チャベスを「『緊縮財政と新自由主義経済学に抗して戦うすべての人々にインスピレーションを与えてくれる』と評したことがある」(257ページ)と注意を喚起している。

ところで、今の日本は「強権的指導者の時代」に距離を置けているのだろうか。リベラルな社会・政治のあり方に背を向けたなら、その隙間から強権的指導者が現れてしまわないだろうか。新型コロナの感染拡大の初期、普段はリベラルな立場にいると思われた言論人や、社会的包摂を唱える政治家が、ロックダウンを率先して提唱した。ギリギリのところで生活している人たちに、きちんとセーフティーネットを提供しないまま、ロックダウンを強行したら、何が起きるのか、まったく思いが至っていなかった。日本のリベラリズムは、まだ薄っぺらいという印象を持つ読者も多いのではないだろうか。

やや堅苦しい解説になってしまったが、本書はジャーナリストが書いただけあって、論旨の展開は滑らかなことを強調しておきたい。一見バラバラな各国の指導者の言動から鮮やかに共通項を切り出すあたりは痛快でさえある。

(日本経済研究センター・エグゼクティブ・フェロー 村井浩紀)

強権的指導者の時代 民主主義を脅かす世界の新潮流

著者 : ギデオン・ラックマン
出版 : 日経BP 日本経済新聞出版
価格 : 2,640 円(税込み)