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弱肉強食の時代は過去のもの。歴史は基本的に進歩へと向かっている――。そのような楽観論を打ち砕く出来事が相次いでいる。ロシアのウクライナ侵攻は、21世紀にもなって、これほどの蛮行が本当に行われてしまうものかと、世界を震撼(しんかん)させた。最近では、中国が演習の名目で最先端の極超音速ミサイルを発射するなど圧倒的な軍事力を誇示して、台湾の、そして日本で台湾に最も近い先島諸島の住民らを脅した。

フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のチーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターであるギデオン・ラックマンの新著『強権的指導者の時代:民主主義を脅かす世界の新潮流』(原題The Age of the Strongman: How the Cult of the Leader Threatens Democracy Around the World)は、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席をはじめとするストロングマンたち、つまり強権的指導者たちに共通する行動様式と、その背景にある価値観や政治的基盤を浮かび上がらせたタイムリーな著作である。8月に日本語版が日本経済新聞出版から刊行された。監訳者の村井浩紀・日本経済研究センター・エグゼクティブ・フェローに読みどころを語ってもらった。

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新しい世代のポピュリスト台頭

最初に断っておきたいのは、本書には、読者が強権的指導者という言葉から想像する独裁者、暴君のうち、何人かが入っていないことだ。全部で13章あるが、金正恩・朝鮮労働党総書記やルカシェンコ・ベラルーシ大統領らを取り上げていない。代わりに、ジョンソン英首相(まもなく前首相に)や、ネタニヤフ元イスラエル首相(返り咲きの可能性も)には相当な紙幅を割いている。「本書は、新しい世代の新しいタイプのナショナリスト、ポピュリストの指導者の台頭を描いている。彼らはリベラリズムを蔑視し、権威主義的な新しい統治方法を受け入れるという点でつながっている」(19ページ)。民主主義的なプロセスを経て選ばれた指導者までが、強権的に振る舞っているという点で、「強権的指導者の時代」の問題は根深い。

「歴史の終わり」は政治学者フランシス・フクヤマ(現スタンフォード大学教授)が冷戦終結後に打ち出したキーワードである。当時の時代認識にぴったりと当てはまったため、本人の思惑を超えて、独り歩きした印象があるが、この整理の仕方は、「強権的指導者の時代」を考える上で、極めて有益な補助線になる。

しばらく前、フクヤマ教授に話を聞いたことがあった。カール・マルクスは、歴史の終わりに立ち現れる、人間社会の最も発達した形態は、共産主義だと主張したが、冷戦末期以降の社会主義・共産主義陣営の退潮で説得力を失った。これに対し、フクヤマ教授は「市場経済と結びついたリベラル・デモクラシー」だと論じ、その結論を今も確信していると述べた。強権的指導者たちが跋扈(ばっこ)する様子に、「歴史は終わっていない」「『歴史の終わり』の終わり」といった批判が出そうだが、フクヤマ教授は、デモクラシー(民主主義)の危機と、リベラル・デモクラシー(自由民主主義)の危機を切り分けて考えるべきだと指摘した。

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