
「たま館の館長(『鏡花』の町田氏)から、ここに店を出してみないかと、お声掛けいただきました」。『鏡花』と言えば、立川が多摩屈指のラーメン激戦区として名をはせる礎を築いた名店。作り手にとっては、まさに最高の栄誉と言えるだろう。
「牛のゲンコツ」が「がんこ」系の符丁
同施設の入り口をくぐると向かって手前左側に同店が鎮座。柱には、同系の店舗が営業中であることを示す符丁「牛のゲンコツ(大腿骨)」が掲げられており、同店が紛れもない『がんこ』系であることがわかる。
券売機には「塩」、「正油」等の『がんこ』の定番メニューのボタンがズラリ。チャーシューは、モモ・バラ・鶏肉の3種類を用意。さらに「辛痛麺(辛系メニュー)」や「つけ麺」なども提供する充実のラインアップ。いずれの一杯も高水準で目移り必至だが、『がんこ』初体験であれば、「塩(バラ)」をおすすめしたい。
同店では、「味(しょっぱさ)の濃さ」について、LEVEL(レベル)1(最小値)からLEVEL8(最大値)まで8段階あり、その中から選択できる。ちなみに、LEVEL2は「マイルド味」、LEVEL4が「基本のがんこ味」。手間ひまを掛けて創り上げたスープの味がよく分かる「マイルド味」も良いが、往年の『がんこ』らしさを堪能したいのならば、LEVEL4がいい。
店長のラーメンづくりの所作に、無駄やよどみは無い。注文から提供されるまでの待ち時間も3分程度と、スピーディーなことこの上なしだ。
縁に大きく店名が刻まれた、純白の丼が映える1杯の仕上がり。香味油の存在も相まって、キラキラと黄金色に輝くスープは、一本一本の麺の形状さえ完全に視認できるほど透明度が高い。レンゲですくい取るのをためらってしまうほどだ。
「全国各地から厳選した国産素材からだしを採っています。スープに用いる水は不純物がゼロに限りなく近い超純水を採用しています」
こうして作られたスープは、鶏と豚の分厚いうま味と豊潤なコクを土台に、エッジが効いたタレの塩味が、味蕾を通じて味覚中枢に訴求。ふわりと宙を舞う生姜の清れつな香りや、魚介の芳香も、鼻腔を通じてはっきりと知覚することができる。純度の高い水を用いていることで、スープの中に息づく各種素材のうま味が鮮やかに縁どられ、生き生きと躍動。飲めば飲むほど、舌上に残る風味の余韻が効果的に作用し、うま味と香りが増幅する。
スープに合わせる麺は『がんこ』系の定番、『サッポロめんフーズ』の中細。美しい黄色を呈した麺は黄金色のスープに違和感なく溶け込み、視覚的安定感は絶大。やや硬めに茹で上げられているため、すすると舌上で元気良くパツンと弾ける。適度にプリプリとした麺肌も、快適な啜り心地の演出にひと役買っている。
「トッピングのチャーシューにも、スープや麺に負けないほど力を入れています。バラ肉は『がんこ』伝統のタレで柔らかく炊き上げ、モモ肉は短時間で炊くことで素材本来のうま味を十分残し、鶏チャーシューはしっとりと柔らかな銘柄鶏のムネ肉を使っています」
とりわけ、軽く箸を入れただけでハラリとほどけるバラロールチャーシューは、食べ手を惹き付けるのに十分過ぎるほどのインパクトを誇る。無我夢中で食べ進めているうちに、いつの間にか丼が空っぽになっていた。
「これからも丁寧な仕込みを心掛け、お客さまに感動と喜びを与えることができる1杯を提供し続けていきたいと思います」と、意気込む横田店長。ラーメン激戦区・立川に、またひとつ実力店が誕生した。これまで『がんこ』のラーメンを食べたことがない方も、この機会に是非、一度召し上がってもらいたい。