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知られざるカナダワイン 世界一美しい産地で育まれる

Discover Canada Sponsored byカナダ観光局

2021.12.22

ナショナルジオグラフィック日本版

カナダのワインといわれても、たいていの人は飲んだことすらないと思う。仮に何か思い浮かぶとしても、せいぜいアイスワインぐらいのものだろう。代表的なカナダのお土産で、細めのボトルに入ったちょっとお高めなワイン、それがアイスワインだ。

代表的なカナダ土産として知られるアイスワイン

アイスといっても別に凍ったワインではない。凍らせたブドウから作ったワインをアイスワインという。ブドウは秋に実る。当然、ワイン作りも秋の収穫から始まるのだが、アイスワインの場合は秋に収穫せず、ブドウの房を蔓(つる)にぶら下げたまま冬を迎える。すると、厳しい寒さによってブドウの実の中の水分が凍ったり溶けたりを繰り返す。やがて糖分が凝縮された、少量の非常に甘い果汁が生み出されるのだ。

ひと粒から得られる果汁はたったの一滴。ひと房でもスプーン1杯ほどにしかならない。しかも蔓にぶら下がった房は、風に吹かれたり雹(ひょう)が降ったりして収穫前におよそ半分が落下してしまう。さらに、氷点下8度の気温が24時間続いた時に収穫しなければアイスワインを名乗れないという基準があるため、冬まで房が落ちずにいても条件がそろわず、アイスワインを作れない年すらある。

ごくわずかな甘い甘い果汁から、手間ひまをかけてアイスワインは作られる。だから値段が高めなのも当たり前だといわざるを得ない。

ただし、アイスワインはカナダのワイン生産量のわずか5%を占めるにすぎない。いくらアイスワインが素晴らしいといっても、それだけでカナダワイン全体を語るわけにはいかないのだ。

世界一美しいワイン産地ともいわれるオカナガン峡谷

カナダの2大ワイン産地と言われるのが、ナイアガラの滝があるナイアガラ地方と、太平洋側の内陸部にあるオカナガン峡谷だ。日本ではあまり知られていないが、実はいずれも世界トップクラスのおいしいワインを生産している。

ナイアガラ、オカナガンともに、その気候や土壌、地形など、ブドウ生産にかかわる条件「テロワール」がかなり変わっているそうだ。例えばオカナガンは乾燥した砂漠地帯にあり、夏の気温は40度にも達し、昼夜の寒暖差が大きい。氷河が大地を削って峡谷を生み出したときに残していったさまざまな質の土もある。

だから同じオカナガン峡谷でも、少し場所が違うだけでさまざまな種類のブドウ栽培が可能になる。そして、それを知った世界中の人たちが、新しくておもしろい、こだわりのワイン作りにチャレンジしたいと、カナダに移り住んで上質なワインを作るようになったのだ。

ただし、そう遠くない昔、オカナガンのワインは、あまりおいしくなかったという。それを劇的に変えたのが、1994年に発効したアメリカ、カナダ、メキシコによる「北米自由貿易協定」(NAFTA)だった。

カリフォルニアの安くておいしいワインがカナダになだれ込んでくる前に、カナダの人たちはブドウをすべて抜き、いい品種の苗に植え替えた。先進地から専門家を呼び寄せ、一からワイン作りを学び直した。その結果、NAFTA発効と同じ年に、オカナガンの白ワインが国際大会で金賞を受賞し、人々を驚かせることになる。

そこに、世界中から移住してきた人たちの知識や経験やチャレンジ精神が加わった。特異なテロワールもある。オカナガンのワインがおいしくないわけがないのだ。

ワイナリーのトラックに描かれた「オゴポゴ」

オカナガンは太古の昔、氷河が大地をえぐりとって作り出した渓谷だ。南北に細長く広がるオカナガン湖の周囲を傾斜地が取り囲み、その先に小高い山々が連なっている。青い湖と空、そして傾斜地いっぱいに広がるブドウ畑の緑が織り成す光景から、オカナガンは「世界で最も美しいワイン産地」とも呼ばれている。

世界レベルのワインが生み出されるようになると、それに合うおいしい料理を、とばかり、オカナガンにはいいレストランができ、周辺の農家も質の高い野菜を育てるようになった。だからここで食べる食事は本当においしいし、ワインもぐいぐいすすんでしまう。

さて、ここで1つ大事な情報がある。オカナガン峡谷の中心をなすオカナガン湖には、「オゴポゴ」なる未確認生物が生息しているという。僕が取材したワイナリーのトラックにも、ドラゴンのような姿をしたオゴポゴの絵が描かれていた。

ネス湖のネッシーみたいなものだろう。ただしネッシーとの最大の違いは、ワインをたくさん飲んで泥酔しないとオゴポゴを見ることはできないという点だ。

僕もオカナガンで絶品ワインをそこそこ飲んだのだが、残念ながらオゴポゴに出会うことはできなかった。しかしよく考えると、そもそも未確認生物であることに加え、泥酔した人しか見られないのだから、その目撃情報の信ぴょう性は極めて低いといえる。

仕方がない、またオカナガンに行ってもっともっと泥酔し、自らオゴポゴの存在をこの目で確かめるしかない。これだけカナダにこだわって取材をし、原稿を書き、講演までしているこの僕が、オゴポゴがいるのかどうか分からないなんて、恥ずかしすぎるというものだ。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

著者 平間俊行(ひらまとしゆき)

ジャーナリスト。1964年、宮城県仙台市生まれ。報道機関での勤務のかたわら、2013年から本格的なカナダ取材を開始。歴史を踏まえたカナダの新しい魅力を伝えるべく、Webサイトや雑誌などにカナダの原稿の寄稿を続ける。2014年7月『赤毛のアンと世界一美しい島』(マガジンハウス)、2017年6月『おいしいカナダ 幸せキュイジーヌ旅』(天夢人)を出版。

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