睡眠、運動、食事でオートファジーを維持

脂っこい食事をとることや、加齢によってオートファジーのブレーキ役となるルビコンは増えるようだ。

では、できるだけオートファジーの機能を落とさず維持するために、私たちが心がけられることはあるのだろうか。

「オートファジーが一気に低下するのは60代以降だと思われるが、これは平均値で、老化というものは個人差が非常に大きいことが知られている。その個人差を決めるのは環境要因が大きいと考えられる」(吉森栄誉教授)。

環境要因としてまず意識したいのが「睡眠」だ。ショウジョウバエを用いた研究で、概日リズムに沿って食事をとることと夜間に絶食期間をもうけることが、オートファジー維持に重要なファクターであるという研究結果が発表されたばかり[4]。吉森栄誉教授は、「オートファジーは寝ている間に活発になるが、このとき満腹状態で血中にアミノ酸がたくさんあるとオートファジーが抑えられてしまう。夕食を食べてすぐ寝ることはオートファジーの活性化を妨げる可能性が高い。夕食は早めの時間に食べて寝るまでの時間をあけることを個人的にはお薦めしたい」という。

前述したように、空腹状態もオートファジー活性を高めるが、「ちまたで流行している16時間断食というのは、長時間空腹状態を作るために、再び食事をした後に血糖値が急上昇する危険がある。また、16時間断食しないとオートファジーは起きないと書かれた本があるが、関係者に問い合わせたところ直接的な根拠はなかった。マウスの実験では6時間の絶食でオートファジー上昇が起こる。それに、そもそも食事と関係なく常に少しずつ起こっているオートファジーによる新陳代謝が重要であることを思い出してほしい。そして、有害物が現れたときには、満腹でもオートファジーは上昇する」(吉森栄誉教授)。

これもマウスの実験だが、運動によりオートファジーが上昇することもわかっている。「極端な運動不足は良くない可能性がある。よく眠って適度な運動をし、脂っこい食事をひかえて腹八分目程度にする、という心がけでオートファジーは維持されると思われる」(吉森栄誉教授)。

オートファジーと天然の食品成分に関する研究も世界中で行われている。

代表的なのが、納豆や味噌、チーズなどに含まれる「スペルミジン」という成分。たんぱく質よりも小さいポリアミンという分子の一種だ。スペルミジンは細胞や動物を用いた試験でオートファジーを活性化することが確認されている。「注目に値するのは、免疫抗体を作る能力が低下したお年寄りの免疫細胞にスペルミジンをふりかけると再び抗体をちゃんと作るようになったという報告があること。つまり、少なくとも抗体を作る細胞では老化は不可逆的ではなく、戻せるということだ」(吉森栄誉教授)。

ブドウや赤ワインに含まれるポリフェノールの一種、レスベラトロールや、サケやイクラに含まれる色素成分、アスタキサンチンもオートファジーを活性化することが確認されている。ザクロやベリー類、ナッツ類などをとると、それらの食品に含まれるエラグ酸が腸内細菌によって「ウロリチン」という物質を作り出す。このウロリチンも加齢にともない機能不全となるミトコンドリアのオートファジーを促し、線虫の寿命延長、動物の筋肉増強効果などが報告されている[5]。

実は、日本人でエラグ酸を材料にウロリチンを腸内で産生できる人は半数ほどしかいないという。そこで、国内でウロリチンを産生できない人を対象に投与した試験を行ったところ、ウロリチンを1日10mg摂取することで8週後に血管内皮機能の改善が見られたという報告もある[6]。

見た目や体調から「年をとったかも……」と感じたら、これらの食品を意識してとるなど、早めに対策をスタートしたい。

血管内皮機能が低下している健康な男女で事前検査によりウロリチンを産生できないことを確認した35人を、プラセボ摂取群、ウロリチン10mg投与群、ウロリチン50mg投与群に分けて12週間の試験を行った。ウロリチンを1日10mg摂取した群で、摂取8週後に血管内皮機能の改善が見られた。 データ:薬理と治療,vol49,10,1715-1728(2021)

吉森栄誉教授は、オートファジー研究の成果を広く産業界で活用するため、大阪大学発のスタートアップ「AutoPhagyGO」(オートファジーゴー)を設立。先ほど挙げた有望な成分などを含むサプリを企業と共同開発し、企業が販売を開始、オートファジー低下を防ぐ薬剤の開発や、オートファジー活性を測定する方法も探索。サプリに関しては、記憶力や免疫力などを糸口に摂取による効果も今後調べていく考えだ。2020年には、吉森栄誉教授が自ら代表理事を務める「一般社団法人日本オートファジーコンソーシアム」も立ち上げ、オートファジーの情報発信や産学官一体の活動を進める。

私たちが体内のオートファジーの状態を手軽に測ることでき、生活習慣や食事から有効な対策を選択できる――そんなことが実現する日を心待ちにしたい。

[4]Nature. 2021 Oct;598(7880):265-266.

[5]Nat Med. 2016 Aug;22(8):879-88.

[6]薬理と治療,vol49,10,1715-1728(2021)

(ライター 柳本 操)

吉森 保
大阪大学大学院生命機能研究科教授、医学系研究科教授。生命科学者、専門は細胞生物学。医学博士。大阪大学理学部生物学科卒業後、同大学医学研究科中退、私大助手、ドイツ留学ののち、1996年オートファジー研究のパイオニアである大隅良典栄誉教授(2016年ノーベル生理学・医学賞受賞)が基礎生物学研究所でラボを立ち上げた時に助教授として参加。17年大阪大学栄誉教授。18年生命機能研究科長。著書に『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス)長生きせざるをえない時代の生命科学講義』(日経BP)、『生命を守るしくみオートファジー』(講談社)などがある。

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