ICT活用して残業短縮、組織をフラット化

アジアを放浪しているとき、自分の看護観が大きく変わった。「病気で寝たきりになった家族は、家でみる」ということが当たり前。「家族なんだからみんなで協力して家でみるんだ」という何気ない一言と、生き生きとした家族の姿が印象的だった。ふと、日本の状況を思い返した。

訪問看護が足りておらず、困っている実情を知り、何とかしたいと考え始めた。日本でも看護師が自ら起業して、訪問看護ステーションを設立する仕組みができあがっている。「看護師も起業できるのか」と新たな目標が見えてきた。訪問看護の第一人者と呼ばれ、白十字訪問看護ステーション(東京・新宿)を運営するケアーズ代表取締役の秋山正子さんを訪ね、現状を知り自身で模索しながら、2013年に看護師3人で起業した。

なんとか初年度の資金ショート危機を乗り切り、最初の3年間は1日も休まず、仕事に励んだ。しかし、事業が拡大できたのは、個人の努力ではなく、チーム医療の仕組みを確立できたからだという。

「1人で120%の看護ができるスーパー看護師を目指すのではなく、チームでフォローし合うことでより多くの人に安定した看護を提供する」という組織体制を構築した。経営陣には財務のプロなどを迎え、スマートフォン端末などを使ったICTツールをフル活用して、看護師の勤務時間の短縮など効率化を推し進めた。社内でマネジメント研修を徹底するが、大事にしているのは組織のフラット化だという。脱ブラック職場を目指し、「リーダーこそ常に謙虚に」と極力上下関係のないチーム作りを心がけた。

リカバリー・インターナショナルは現在、東京など首都圏のほか、兵庫、高知、沖縄など各県で訪問看護ステーションを展開し、約90人の看護師が所属している。コロナ禍でも業績は大きく伸びている。今後はフランチャイズ化や看護マネジメントのコンサル事業などを計画中だ。現在、訪問看護師の数は約9万人だが、25年には15万人が必要とされている。

ただ、実際は「看護師の資格は取得したが、入職した病院はパワハラ体質のため、転職して看護職以外をしている」(20代の女性看護師)など離職する若手が増えている。「患者のために自己犠牲の精神でがんばろう」といくら訴えても、今の若い看護師には響かない。東京医療保健大学の田村哲夫理事長は「欧米の看護師の社会的な立場は決して低くない。医療機関のトップには看護師出身者も多い」という。日本の医療界でもマネジメント能力を身につけたリーダー人材の看護師の育成が不可欠となりそうだ。

(代慶達也)