隙間無く肉詰めるために缶の形状が変化

ところで、缶入りコンビーフが初めて登場したのは1875年、アメリカでのこと。当初から缶型は台形で、開け方は巻き取り式だった。試作段階では、当時普及していた丸缶を使ったと言われているが、丸缶だと肉を隅の部分まできっちりと詰めるのが難しく、隙間ができてしまった。隙間には空気が残るため、そのまま密封すると空気に接した部分が変色し、品質上好ましくないものになる。

そこで考え出された形が台形だった。胴体と上部フタ(面積の狭いほう)を密封しておき、それを逆さまにして、広く開いた口から肉を詰めていくと、肉に圧力がかかって空気が上方に抜ける仕組みだ。

台形だと肉を隙間なく詰められる

ただ、台形の缶は中身をきれいに取り出すのが難しい。そこで、胴体の途中に切り目を入れ、鍵で巻き取って上下に分離する方法が考案された。いうなれば、あの形と開け方はコンビーフ缶のために開発されたというわけ。ちなみに、現在では丸缶でも肉を隙間なく詰める技術が確立されている。だから丸缶のコンビーフでも心配は無用であります。

さて、コンビーフと言えばおつまみのイメージが強いけれど、ごはんとの相性も悪くない。具にコンビーフを使ったおむすびは特に美味で、僕もよく作って食べている。

たくあんが決め手のコンビーフおむすび

特にオススメしたいのは以下のレシピであります。

①コンビーフをほぐして、刻んだたくあんと混ぜる

②塩むすびを作って①を入れれば缶成(完成)! 大葉を刻んで混ぜるとより爽やかになる

コンビーフの脂っこさと軟らかさに対して、たくあんは甘酸っぱくてコリコリと硬い。味も食感も違う食材同士を合わせることで、飽きることなく最後まで食べられる。このレシピのヒントになったのは、巻きずしの「トロたく」だ。刻んだたくあんにマグロのトロを合わせるところを、コンビーフに替えてみたところ、予想以上にうまくいった。

容器が進化したように、コンビーフそのものも時代に合わせて進化している。最も分かりやすいのは、牛脂の割合が減ったことだろう。昭和の時代のコンビーフは、まるで雪を被った富士山のように牛脂で白く輝いていた。しかし今では、健康のために脂の摂取量を控える人が増えたため、牛脂の量も少なくなった。

また、薫製風味を利かせてウイスキーに合うようにしたり、フォン・ド・ヴォーで味付けして一品料理のように仕上げたりと味付けも多彩になった。コンビーフの進化はまだまだ止まらないのだ。

(缶詰博士 黒川勇人)

黒川勇人
1966年福島市生まれ。東洋大学文学部卒。卒業後は証券会社、出版社などを経験。2004年、幼い頃から好きだった缶詰の魅力を〈缶詰ブログ〉で発信開始。以来、缶詰界の第一人者として日本はもちろん世界50カ国の缶詰もリサーチ。公益社団法人・日本缶詰びん詰レトルト食品協会公認。

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