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言葉選びを工夫しないと、思いが伝わりにくい(写真はイメージ) =PIXTA

言葉選びを工夫しないと、思いが伝わりにくい(写真はイメージ) =PIXTA

経済界のリーダーたちの発言は、しばしばメディアに取り上げられる。中身に重みや価値があるからだが、それだけではない。印象的に伝わるよう、言葉選びに工夫が施されているケースが多い。「伝えてもらいやすさ」を意識したトップトークの実例をみていこう。

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は9月15日のオンライン講演で、「日本復活の鍵は『スマボ』」と述べた。「スマボ」とは、スマートロボットの略。人工知能(AI)を使って、自ら学ぶ進化形ロボットのことだ。

「スマボ」の言葉はメディアがこぞって見出しに取った。パッと見た感じはおなじみの「スマホ(スマートフォン)」にそっくり。でも、濁音が加わるだけで、意味がガラリと変わっている。業界内では以前からある言葉なのかもしれないが、私はこの発言で初めて知った。

鮮度の高い新語を投入して、聞き手を刺激するのは、効果的な手だ。ただ、これはなかなかに難度の高いテクニックだ。聞き手の平均的なリテラシーを踏まえたうえで、耳新しい言葉を選び出す必要がある。

「スマボ」が面白いのは、日常語の「スマホ」とたった1文字の違いというところにもある。でも、片方は聞き慣れた言葉で、もう片方は初めて聞く人も少なくない言葉。このコントラストが聞き手を引き込む。

新興の企業グループを率いる経営者は、こういったキャッチーな物言いを強みとする人が珍しくない。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長もその1人だろう。10月12日のオンライン講演では、キャッシュレス化が進展すれば、いずれ通貨を使わない「『ゼロキャッシュ』時代が必ず来る」と述べた。

既に現金の支払いを受け付けない店舗やサービスが増えてきている。各種のカードで支払う人も多くなっていて、「キャッシュレス化」は聞き慣れた言葉だ。しかし、あえて、この聞き慣れた言葉を避けて、「ゼロキャッシュ」と言い換えたところが発言者の知恵といえる。同じような意味の「レス」を「ゼロ」に置き換えて、先頭に持っていっただけともいえるが、その一工夫がぐっと言葉の鮮度を高めた。

三木谷氏が言葉を磨いた効果があったのか、日本経済新聞の電子版は 楽天G・三木谷氏「『ゼロキャッシュ』時代、必ず来る」 と見出しを取った。ポイント経済を拡大していく楽天グループのトップらしいメッセージを送り出した格好だ。

個人的な印象でいえば、「レス」より「ゼロ」のほうがインパクトが強いように思える。完全に消えてなくなるというイメージを、「ゼロ」という表現は呼び覚ます。言葉の頭に置くのも、インパクトを強める効果が期待できる。

「スマボ」と「ゼロキャッシュ」に共通しているのは、文字数が「短い」ということだ。端的と言い換えることもできるだろう。誰かに伝えてもらうには、まどろっこしい表現ではまずい。ワンフレーズで言い切れるほうが見出しに使われやすく、SNS(交流サイト)での拡散にも向く。

短い言葉にまとめるには、考えのほうも凝縮する必要がある。ワンフレーズにまとめても、しっかり意味や意図が伝わるよう、メッセージを磨いておくのが望ましい。「意図に反して伝わった」という言い訳めいた物言いをしばしば耳にするが、誤解の余地を残した、生煮えの言葉を発した責任は本人にあるだろう。

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