鈴木修氏と南場智子氏の表現術

メッセージを印象的に伝えるには、たとえや見立てといった技法が役に立つ。経営の第一線を退いた、スズキの鈴木修相談役は、そういった物言いが上手だった経営者の1人だ。

1981年に米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携したときは、「巨大なGMにのみ込まれるのではないか」という見方が浮上した。その際、鈴木氏はこう言った。「GMは鯨。スズキはメダカより小さな蚊。メダカならのみ込まれるが、蚊は空高く舞い上がり、飛んでいける」

サイズが極端に異なる鯨とメダカを対比するところまでは、多くの人が思いつきそうな比喩だ。どちらも水の中に暮らす生き物という意味では、わかりやすいたとえともいえる。

しかし、鈴木流は、そこで終わらない。空を飛ぶ点で、決定的に両者と異なる蚊を引っ張り出して、自由度の高さを際立たせたのだ。細かいところでいえば、メダカと蚊は韻を踏んでいて、しかも蚊は字数が最少の1文字。見事としか言いようのないほど、優れたたとえだ。

状況を整理したような「評論家」的な口ぶりはリーダーへの求心力を生みにくい。自分ならではの視座からオリジナルな提案やアイデアを示さないと、「この人についていこう」という気持ちは起こりにくいだろう。経団連で初の女性副会長に就いた、ディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長はオンリーワンの着想が持ち味だ。

21年10月19日付の日本経済新聞朝刊に載った南場氏のインタビューでは、独自の成長戦略を披露した。教育分野の改革に関して「日本は『間違えない達人』の量産制度になっている。人のやらないことに夢中になるのが起業家の条件だ」と述べた。減点主義や事なかれ主義といった言葉は以前からあるが、「間違えない達人」というのは、ずっと分かりやすい。

具体的な提案も多彩だ。企業誘致については「家賃や税金をすべてタダにするくらいの勢いで」と、好条件での優遇を提案した。「タダ」という踏み込みの深さに、シンガポールやソウルとの激しい競争のリアリティーを感じる。

「『スタートアップ庁』の設立が有効ではないかと考えている」というのは、初めて聞いたアイデアだが、魅力的に聞こえた。「成長支援庁」とか「新興企業庁」など、官僚が選びそうな漢字主体の言葉とは違うズバリのネーミングもさすがだ。自らがスタートアップ創業者だけに、説得力も申し分ない。

ここまで6人の経営者の言葉を紹介してきた。これらの意外性と的確さを兼ね備えた言い回しは、普段から練り上げておかないと、なかなかすぐには思い浮かびにくいものだ。今回取り上げた事例も、おそらく発言者がかねて温めていたものが少なくないはずだ。

優れたアイデアであっても、そのままでは拡散力を持ちにい。言葉として錬磨されるプロセスが欠かせない。磨き上げるにあたっては、「伝えてもらえるだけの力を備えているか」をものさしにしたい。目の前の相手だけではなく、さらにその先の人たちにまで拡散していくだけの伝わりやすさがあるかどうかがポイントだ。日々、メディアでは優れたコメントやインタビューが紹介されているから、気に入った表現をメモしておくだけでも、言葉選びのセンスを磨く助けになるだろう。

梶原しげる
梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。