永守重信氏と柳井正氏の言葉選び術

優れた経営者が持つ、独特の語り口は、その人の名前を冠して「~節」と呼ばれる。日本電産の永守重信会長も「永守節」の持ち主だ。

「永守節」が人を動かす理由の1つは、説得力のある数字が盛り込まれているからだ。持論は「自動車の値段は必ず5分の1になる」。ショッキングな数字を示して、耳目を集めてきた。

2020年11月の日経フォーラム「世界経営者会議」では「2030年に自動車の価格は現在の5分の1程度になるだろう」と述べ、具体的な時期まで示した。電気自動車(EV)の心臓部は、同社の主力製品であるモーターで、同社の存在感が自動車業界で一段と大きくなることを示唆している。

後継者と位置づける関潤社長に関しても数字で評価を語る。「僕のやり方を完璧に学ぶのには普通は10年かかるが、彼なら3年くらいでできるだろう。社長就任から1年かけて永守流経営の神髄を理解してきている」。数字を生かして、能力を形容しつつ、今後のスケジュール感まで示すという複雑な発信を、「10年、3年、1年」という三つの数字で表現してみせた。

「経営者になるためのノート」「一勝九敗」などの著書を持つ、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長も言葉を巧みに操る経営者の代表格だ。柳井氏は目先の話だけではなく、ビジョンや枠組みを示す能力にたけている。たとえば、2021年1月に「日経MJ」が掲載したインタビュー記事では「ユニクロ柳井社長『すべての製品に美意識を』」という、目を引く見出しが取られた。

実際にはこう述べている。「本当に良い製品には美意識がある。服だけでなく、あらゆる製品に共通している。米アップルのiPhoneが世界で支持されるのは、美意識があるからだ」。歴史的なヒット商品のiPhoneを引き合いに出して、美意識の大切さを説いた。

同時に、自らが重んじる価値や、企業としてのミッションまで示している。「美意識」がそれらすべてを象徴的に言い表しているから、見出しに選ばれたのだろう。こういうキーワードをしっかり打ち出せるかどうかは、リーダーの求心力にもかかわってくるはずだ。

同じインタビューの中では「ユニクロが目指すのは、性別や年齢を問わない『究極の普段着』」とも述べている。実にわかりやすい。言葉が研ぎ澄まされていて、たった6文字で自社の目指す方向性をきれいに言い尽くしている。

短いだけではない。「究極の」という強い形容を添えて、格上感や上質さをまとわせた。普段着と聞くと、ありきたりのデザインや平均的な品質をイメージしがちだ。しかし、そこに「究極の」をかぶせることによって、逆説的なニュアンスを引き出している。軽く見られやすい「普段着」という言葉をねじり返し、自負すら感じさせる、見事なワーディングと映る。

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