カヌーでボーダー・ルートに挑戦する人々をサポートするイーリー・アウトフィッティング社のジェイソン・ザボクラツキー氏は、「これほど長いカヌー旅をする人はめったにいません」と言う。「この旅を通じて、人はいや応なしに成長します」

過去と、生命の輪につながる

ボーダー・ルートをたどることは、この地域の歴史と先住民(その子孫は現在もミネソタ州北部に住んでいる)を理解する機会でもある。

「自分が白人入植者であることの意味を問い直すため」に、米国人の映画監督タイ・オルソン氏は2021年3月にボーダー・ルートをたどった。「ここは今でも先住民の土地なのです」と氏は言う。

「カナダには、125のオジブワ族の居住集団があります。米国にも同じくらいの数の集団がいて、そのうちの7つがミネソタ州にあります。カナダのオジブワ族の一部は、今でもボーダー・ルート沿いの集落に住んでいます」とトロイアー氏は言う。「単なる歴史的存在ではありません」

ラ・クロワ湖のカナダ側の湖岸のウォリアー・ヒルという高い崖の近くでは、大昔の人々が残した数十個の手形や動物の絵を見ることができる。水面から切り立つ崖に、大きな枝角を持つ雄のヘラジカが赤い顔料で描かれている。

ミネソタ州のバウンダリー・ウォーターズ・カヌー・エリア・ウィルダネスで、ラ・クロワ湖沿いの崖に描かれた壁画の横を進むカヌーイストたち。この地域には500年〜1500年前の壁画が見られる場所が二十数カ所ある(PHOTOGRAPH BY LAYNE KENNEDY, GETTY IMAGES)

この壁画は、この地域に20以上ある遺跡の1つで、1500~500年前のものと推定されている。バウンダリー・ウォーターズのナイフ湖からは、1万2500~1万1000年前に氷河が後退したときにこの地域に最初に定住した古代北米先住民が使っていたシルト岩製の石器も出土している。

ボーダー・ルートの魅力の1つは、先住民の枠組みの中で、「『生命の支配者としてではなく、生命の輪の一部として』生きる経験ができることだ」とトロイアー氏は話す。

手作りのカヌーで、米国ミネソタ州のバウンダリー・ウォーターズ・カヌー・エリア・ウィルダネスの湖を行く。水辺を取り巻くのは、黄金色に染まったアメリカカラマツ。(PHOTOGRAPH BY JIM BRANDENBURG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

(文 Stephanie Pearson、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年8月12日付]