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テレワークなど新しい働き方が広がる中、コミュニケーションや組織マネジメントの手法としてコーチングが注目されている。経営コンサルティング会社のKPMGのコンサルタントだった平田淳二氏(49)は、自身のコミュニケーションの悩みを解決したいとコーチングスクール大手「CTIジャパン」のコースを受講。それをきっかけにプロのコーチとして独立し、2021年からは同校の運営会社ウエイクアップの社長に就任した。コンサルタントに憧れ、やりがいと経済的安定を手にしていたという平田氏。何が大胆なキャリアチェンジに突き動かしたのか。

(上)コーチング大手社長 KPMGコンサル時代に流した涙の力

二足のわらじで苦闘

大学を卒業後、オフィス用品・システム販売会社から小さな食品会社を経て、30歳でKPMGに転職した平田氏は、コンサルタントの仕事にまい進していた。顧客とのコミュニケーションの悩みを相談した先輩からコーチングを勧められ、CTIジャパンに通い出したのは2004年。さまざまなよろいで固められていた心が解き放たれ、自分の本音に気づけた経験から、自身もコーチングで生きていこうと決意し、睡眠時間を削って国際コーチング連盟(ICF)が認定する資格を取得した。

しかし、いざ会社を辞めるとなると足がすくんだ。

「コンサルタントは、経営にかかわる仕事がしたいと憧れ、ようやくつかんだ仕事。優秀な先輩たちに追いつこうと頑張った結果、かなりいい成績を上げていました。もちろん待遇も良かった。それを一気に失うのがとても怖かったのです。ちょうどマンションを買って、2人目の子どもも生まれたばかりというタイミングで、妻に『会社を辞める』なんてとても言い出せませんでした。何より、給料日にまとまったお金が入ってこないという恐怖が強力なストッパーになりました」

コンサルタントとして顧客企業の業務改善やコンプライアンスに関わりながら、コーチングの勉強も続けたが、葛藤は大きくなるばかり。ある時、上司に相談すると「そんなにコーチングへの思いが強いのなら、会社の新しいサービスとしてやってみてはどうか」と提案された。上司の優しさが身に染みた。「コンサルタントとしての売り上げは落とさない」という厳しい条件だったが、仕事の1割をコーチングに割くことが許された。

ウエイクアップCEO 平田 淳二氏

ウエイクアップCEO 平田 淳二氏

業務時間に両方の仕事をできるのはありがたく、最初はうまく行くと思っていた。だが続けていくうちに、やはり苦しくなってくる。コーチングで資格を取った仲間が次々と独立し、コーチングに100%の力を注ぎ込んでいるのを横目で見ながらもんもんとした。そうなるとコンサルティングの仕事にも集中できない。そんな中、あるコーチングの講習会でプロのコーチを受ける機会が訪れた。もちろんテーマは、自分がいま抱えている葛藤について。

「本当はやりたいことがあるのにできない自分。一歩を踏み出す勇気を持てない自分。その情けなさを、コーチングのセッションの中で徹底的に味わいました。その上でコーチから『あなたは前を見たことがありますか』と問いかけられたのです。『そこにはあなたを待っている人がいるかもしれませんよ』と。そんな、僕を待っている人なんていないかもしれない。でも、いるかいないかは自分から見に行かなければわかりません。自分はその見に行くという選択すらしていなかったのだと気づきました。そして、ああ、この先ずっとお金がなくなる恐怖におびえて生きる人生は嫌だ。それよりも、僕を待っているかもしれない人に会いに行く人生を選ぼうと」

翌日、KPMGを辞める決断を会社と妻に伝えた。コーチングとの出合いから4年。36歳だった。上司は笑顔で一言「いいな、お前」。信じた道に進む決断に対する最大級の応援の言葉と受け取った。

驚いたのは、周囲に辞めることを伝えた途端に、いろんな人からコーチング相手や研修講師の仕事を紹介されたことだった。おまけに上司からは、担当していたクライアントのコンサルティングは、個人事業主として続けていいとまで言ってもらえた。「思い切って扉を開いてみたら、待ってくれている人がいた」と平田氏。

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