人材が競争力を生み出す 人的資本経営へ戦略シフト

ヒト、モノ、カネは経営の三大資源といわれます。中でも今、ヒト(人材)への注目が急速に高まっています。人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値向上につなげる人的資本経営を表明する企業が国内外で増加しています。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や、新型コロナウイルスの感染拡大などで経営環境は大きく変化しています。先が読めない時代だからこそ、競争力の源泉である人材に注目が集まっているようです。女性管理職比率や離職率など、人材の活躍・育成状況の情報開示を求める動きが広がっていることも理由のようです。

三井化学は今年4月、安藤嘉規専務執行役員をCHROに就けます。CHROは「Chief Human Resource Officer」の略で最高人事責任者のことです。同社は昨年、長期経営計画をまとめ、2030年度の連結純利益を2倍近い1400億円に伸ばすといった目標を定めました。目標達成を担う社員をどう育て活躍の舞台を整えるのか、人材戦略の立案・実行に責任を負います。

人材重視の動きは他社でも顕著です。資生堂は1月に人事部を解消し、人財本部を設けました。採用や育成、給与管理といった従前の雇用管理に加えて、社員データの分析やDX活用を通じて変革期を担う人材強化に努めます。中部電力も4月に社長直轄の人財戦略室を新設します。

働き方改革や女性活躍推進など、企業は人事施策の見直しを進めてきました。ただ人的資本経営へのシフトはそうした流れとは別です。デロイトトーマツグループ執行役員の田中公康氏は「経営戦略と強く結びついているのが特徴。企業価値を高めるためにはどんな人材が必要なのか。経営戦略から逆算して人材戦略を立てようとする動きです」と説明します。

新卒採用した社員をどう育てて、企業の成長の源泉とするか。人事戦略の重要性が増している(2021年4月の入社式、東京都千代田区)

背景にあるのは産業構造の変化です。2次産業が主流の時代は、いかに早く安く生産するかが企業の競争力の源泉でした。今は「何を」つくるか、創造性と革新力が問われます。これらは製造装置のような有形資産からは生じず、人材などの無形資産から生まれます。米国S&P500社の市場価値を分析すると、その約9割は無形資産が生み出しているといわれます。

政府も人材を中心に据えた経営を注視します。経済産業省は人的資本経営の実現に向けた企業向けガイドラインを年度内にまとめます。上場企業には人的資本に関する情報開示を求める意向で、開示項目や手法の議論も始まりました。

「欧米では情報開示を義務付けるルールが整備され、人的資本経営の中身は投資対象とするか否かの判断材料にもなります。日本企業も今後は、成長に結びつく人材戦略を立てて実行することが求められます」と田中氏は指摘します。

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デロイトトーマツグループの田中公康氏「経営戦略に基