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ジョブ型雇用を採用する企業が増えている。人工知能(AI)に代表されるデジタル技術がビジネスで活用されるシーンも増えた。急激な環境変化の中、「学び直し」や「リスキリング」といった言葉をよく耳にするようになり、「自分も何かを学びたい」と考える人もいるだろう。しかし、いざ学ぼうとすると、何をどこで、どう学べばいいかわからない。

そんな時、手近な学びの入り口となるのが書籍である。本書『キャリアをつくる独学力』は、これからの時代に、個人がいかに学びを進めていけば良いのかを解説する一冊だ。社会人に独学力が求められるようになった背景や、学びに向かうマインドセットなどについて解説。また、独学者のロールモデルとして、サラリーマン生活を経てまったく異なる分野の堀口珈琲を創業した堀口俊英氏、スペインでサッカー指導者資格を取得し、現地のビッグクラブの指導者を務めた佐伯夕利子氏などの事例も紹介する。

著者は、慶応義塾大学SFC研究所上席所員。世界的人事組織コンサルティング会社米ワイアットの日本法人(現ウイリス・タワーズワトソン)代表取締役社長などを経て独立し、コンサルティング活動や人材育成支援を行っている。

教わるだけではない「学びのHow」

本書で著者が「独学」と呼ぶのは、「学びの主体性」のことだ。独学力は、「学びのWhy(なぜ学ぶのか)」「学びのWhat(何を学ぶのか)」「学びのHow(いかに学ぶか)」の3要素からなる。これらを主体的に決めていく意識を強く持つことが、独学への第一歩という。

これから何かを学びたいと考えているならば、まず、自分は「なぜ」学ぶのか、すなわち何が自分を学びに突き動かすのかを意識することが重要になる。例えば、地方に移住しても働けるエンジニアの職に就きたいなど、前向きな理由もあるだろう。あるいは、現在の仕事の先が見えないという危機感が動機になるケースもあるかもしれない。

「何を」学ぶかを決めるにあたっては、著者は、自分の関わる事業の「ビジネスモデルの賞味期限」を意識することを勧めている。銀行の窓口業務なら、IT化によって人員の削減が進められており、業務縮小の結果、投資信託の販売や、いわゆるコンサル営業などまったく異なる業務に異動となる可能性がある。また、IT業界なら、顧客の求めるものが変化し、「モノ売り」から「ソリューション提供」へと仕事の内容も変わった結果、営業職に必要なスキルも変わった。ビジネスモデルの賞味期限は、どの業界にもある。それが切れた後を想定すれば、今後必要になるスキル、つまり自分が「何を」学ぶべきかの方向性が見えてくるだろう。

「なぜ」「何を」に加えて、「どのように」学ぶかも重要なポイントだ。著者によれば、独学の選択肢には、教育機関に通うことなども含まれる。しかし、「教わる」以外の選択肢があることを覚えておきたい。本書には、英国から来日して英会話教室を経営していたが、一念発起して沖縄でチーズづくりをはじめた「ジョンさん」の話がある。ジョンさんのチーズは地元のデパートでも販売されるほどの評判だが、彼はチーズづくりを誰かに教わったわけではない。インターネットと本、そして自分で作りながら学んだ。自ら学ぶ姿勢があれば、その方法はいくらでもあるのだ。

日本のビジネスシーンに長く根付いてきたOJT(職場内訓練)も一例だが、日本人は何を学ぶにも先生や先達が必要と考えがちだ。年功序列が浸透し、学びも「師弟関係」の序列でとらえるためだ。技術の進化や環境の変化に伴って、最適な学び方も変化する。ギブ&テイクの補完関係で学ぶ「ヨコの学び合い」や、多様な領域の人に接する「越境学習」など、本書をヒントに自分にあった学び方を探してみると良さそうだ。

会社と個人の利益を合致させる

「独学力」が求められる時代、企業の姿勢も変わる必要がある。従来の日本企業の経営では、個人が自律したキャリアを築こうとしても、会社の都合と合致しないケースが多かった。しかし今後は、経営の視点からも社員の学びを推進することが重要という。社員の独学を支援し、独学での学びを生かす機会を与え、会社と個人の利益を合致させていくことが不可欠になる。

ただし、企業が社員に学びの機会を押し付けても、「独学力」は育たないようだ。昨今、「人への投資」の必要性がいわれ、各種の研修やリスキリングのプログラムを提供する企業は多い。しかし、用意されたプログラムを個人が「やらされて」いては、本人の負担感が増すばかりだ。あくまで、個人が主体性をもって学ぶことが重要だ。

まずは「なぜ」学ぶのか、自分に問いかけるところから始めたい。学びの第一歩を踏み出せずにいる人に、本書は方向性を示してくれるだろう。

(情報工場 エディター 前田真織)

情報工場
広い視野と創造力を育成する「きっかけ」として、様々な分野から厳選した書籍をダイジェストにして配信するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を展開している。「リスキリングbooks」は、「SERENDIP」で培った同社ならではの選書力を生かし、リスキリングに役立つ書籍を紹介する

キャリアをつくる独学力――プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント

著者 : 高橋 俊介
出版 : 東洋経済新報社
価格 : 1,870 円(税込み)

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