金融システムも設計し直す必要

新しい世界では、銀行システムも、貧困ゼロ、富の集中ゼロの実現を支援する仕組みになっています。そのためにはすべての金融システムを設計し直さなくてはなりません。そもそも金融システムは、人々の生活を豊かにするために存在するものです。特定の企業が利益を得るためではありません。

現在の銀行システムの問題点は、富の集中を助長させる仕組みになっていることです。お金持ちには優先して貸して、貧しい人には貸さない。この仕組みを逆転させなくてはなりません。最も貧しい人に最も優先的に最も多くお金を貸し、すでに十分なお金を持っている人への融資はあとまわしにする。これが新しい世界の銀行システムのあり方です。そして銀行は、起業を志す人に率先して融資して、その人たちが起業家として成長し、繁栄するための支援をすべきです。

もしすべての人々が起業家になれば、富の集中は生じないでしょう。富の集中は、使用人として企業や組織に仕える人がいるからうまれるのです。懸命に働き、お金をもらう。戦場にたとえれば、君主のために自分を犠牲にして戦う。ところがどれだけがんばっても、豊かにはなれません。雇用主が豊かになる手伝いをしているだけだからです。

それとは反対に、自らが起業家となり、雇用主と対等な立場にたてば、スーパーリッチはうまれません。起業家になるということは、すなわち自分自身のために働くことであり、雇用主のために働かないことなのです。自分のために働けば、働いた分は自分のものになります。自分も雇用主になれば富の集中は生じません。むしろ、すべての人々が等しく豊かになります。パンデミックからの復興過程においては、こうした起業家を支援する新しい金融システムを創造すべきです。

すべての人がソーシャル・ビジネスを創出できる世界へ

佐藤 「3つのゼロの世界」の実現に向けて、企業が利益至上主義から脱却するにはどうしたらよいのでしょうか。

ユヌス 私が提唱しているのは、すべての人々が「ソーシャル・ビジネス」[注1]を創出できる世界を実現することです。「ソーシャル・ビジネス」とは、利益の最大化ではなく、社会問題を解決することを目的として設立される会社のことです。利益はすべて社会や社員に還元し、無配当を原則としています。

経済理論の中には、企業の目的は株主価値を最大化することだ、と述べているものもありますが、これは間違った考え方です。企業は正しい目的のために存在しなければなりません。

自分がより社会に貢献できるように利益追求型のビジネスから撤退し、「ソーシャル・ビジネス」に転換してもよいですし、利益追求型と「ソーシャル・ビジネス」を両立することも可能でしょう。上場企業であれば、株式を上場したまま、子会社などで別途「ソーシャル・ビジネス」を設立することもできます。

2021年はまだまだ「ソーシャル・ビジネス」の種まきをしている段階です。今後、その種が芽を出し、大きな木となり、やがて美しい森となっていくことを期待しています。私が1983年に、グラミン銀行を創設したときも、すべては小さな活動からはじまりました。当時はグラミン銀行なんて誰も知らなかったのです。しかしグラミン銀行は徐々に世界へと拡大していきました。同じように「ソーシャル・ビジネス」がどんどん広がり、2030年までに、世界中が「ソーシャル・ビジネス」で満たされることを願っています。

[注1] ユヌス博士の提唱する「ソーシャル・ビジネス」には7つの原則がある。以下のホームページ(HP)参照。(https://www.yunusjapan.jp/113370.html)

ムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)
 バングラデシュの経済学者・銀行家・社会起業家。九州大学高等研究院栄誉教授。1940年バングラデシュ・チッタゴン生まれ。60年ダッカ大学卒業。70年米ヴァンダービルト大学にて博士号取得。72年に帰国後、チッタゴン大学経済学部長を務める。83年、グラミン銀行創設。マイクロクレジット(無担保少額融資)を通じて、世界の貧困問題の解決に貢献。2006年、グラミン銀行とともにノーベル平和賞受賞。マグサイサイ賞、米大統領自由勲章、米議会名誉黄金勲章など受賞・受勲多数。21年7月には「オリンピック月桂冠」を授与され、話題を集めた。主著に『ムハマド・ユヌス自伝』『貧困のない世界を創る』、近著に『3つのゼロの世界――貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済』(早川書房)。