――塚本康浩著『ダチョウはアホだが役に立つ』は、ウイルスへの抗体に関する書籍ですね。

前田 はい。昨年に続き、コロナウイルスをはじめとする感染症に関する書籍にも、注目の集まる1年だったと思います。本書は、ダチョウの卵から迅速、大量、安価に抗体を生産する方法を開発し、新型コロナウイルスの抗体入りマスクやキャンディーなどを開発して売り出した「ダチョウ博士」の本です。注目は、博士のベンチャー精神。ダチョウ抗体から化粧品やダイエットサプリ、薄毛に効くとされるシャンプーまで開発して発売しています。

じつは、博士は幼い頃に吃音があって学校になじめなかったそうですが、一方で徹底した鳥好きが高じてダチョウ博士になりました。「アホだが役に立つ」という言葉に、「まわりからはアホやと思われた僕でも」抗体の研究で社会の役に立っている、というご自身の姿を重ねているんですね。著者の、関西人のノリとダチョウへの愛情が軽妙な文体からあふれ出す、読み物としても楽しい一冊です。

「マイノリティー」を社会に生かす

前田 コロナに加えて、今年注目のできごとといえば、東京五輪・パラリンピック。澤田智洋著『マイノリティデザイン』は、パラリンピックで「マイノリティー」への注目が高まったことから選書しました。マイノリティーを克服するのではなく、むしろ社会に生かすという考え方を説いています。著者は大手広告代理店の社員ですが、従来の仕事は「スピード・スケール・ショート」だった。つまり、早く・広く・短期間で成果を上げることを尺度としていたのです。しかし、これからはむしろ「スロー・スモール・サステナブル(持続可能)」、つまりゆっくり小さく生み出し、じっくり育てることが長生きするアイデアを生み出すことにつながるとしています。考えてみれば、早さや効率ばかりを重んじることが、今日の社会問題が生まれる原因にもなってきたように思えます。ゆっくり、じっくり、といった発想や価値観こそが重視されるべきで、マイノリティーを社会に生かす視点はこうした考え方に直結する。近年、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包摂)を掲げる企業は増えていますが、その本質を理解する補助線にもなる一冊です。

――米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ著『地球の未来のため僕が決断したこと』(山田文訳)は、昨今注目を集めている気候変動問題への対応、脱炭素社会をテーマにしていますね。

安藤 冒頭から自身のカーボンフットプリント(温暖化ガス排出量を二酸化炭素に換算したもの)を記載しており、ビル・ゲイツ氏の本気度と切実さが伝わります。もともと貧困国支援に力を入れていたので、貧しい国はエネルギーを使って豊かになるべきだという信念があり、そのために新しいテクノロジーを使ってクリーンエネルギーを作り出し、地球規模でカーボンニュートラルを実現しようと説いています。ではどうするか、というテクノロジーの話が続いていくのですが、ビル・ゲイツ氏が技術を信頼していることもあり、危機感が煽られるよりは「こんなことが実現できる」と未来が楽しみになるような、明るさを持った本です。

脱炭素に関わる課題は複雑で広範囲にわたっていますが、著者の分析によってわかりやすく整理され、すらすら読めるのも特徴ですね。今後どの国、どの企業でも対応が求められる気候変動問題について、一気に理解を深められます。

大きなテーマの本が並びましたので(笑)、少し趣向を変えてこんな本はいかがでしょう。羽田康祐著『インプット・アウトプットが10倍になる読書の方程式』は、ビジネス書からの学びを最大化するメソッドを教えてくれるもので、そのキモは「視点読書」にあります。視点読書とは、本の著者の視点、つまり着眼点や目のつけどころを意識して読書するという方法。本の「内容」ではなく、著者の「考え方」を読み取ろうとしている点が斬新です。私自身もそうですが、物事を見るときの視点は固定化しやすいもの。視点は思考のスタートなので、その持ち手を増やすことで、物事の多様な側面を認識できるようになります。今回ご紹介した9冊を振り返りながら、著者らがどんな着眼点を持っているのか、探ってみてはいかがでしょうか。

前田 コロナ禍で沈みがちだからこそ、読書を通じて視野を広く持ち、前向きでいたいと思います。

(聞き手は白山雅弘、水柿武志)

安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。
前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。