中高年への支援、なぜ必要

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 給付に様々な条件をつけると、多額の人件費や事務費がかかるという批判もあります。

バナジー おっしゃるとおり、給付対象の選別がとてもむずかしいのは事実です。しかし、日本のように社会保障制度が整っている国では、誰が失業し、誰が経済的に困窮しているといった情報を得ることができるのではないですか。先進国には複雑な条件付き給付に対応するだけの能力がありますから、それほど大きな問題にはならないと思います。インドやアフリカの国々とは事情が違います。

佐藤 日本では子どもへの経済支援が議論の中心になっていますが、バナジー教授は貿易や技術革新によって打撃を受けた企業の50歳以上または55歳以上の社員(勤続年数10年以上)の賃金に国が補助金を出すことを提案されています。なぜ中高年社員への支援が重要だと考えるのですか。

バナジー 50歳以上の人々がゼロから人生を再構築できると考えるのは現実的ではないからです。私は現在60代ですが、もしいま大学から「教授職とは全く違う仕事をしてください」といわれても、私には無理です。ゼロから新たなスキルを身につけるだけのエネルギーがありません。30代だったらできるでしょう。でも60代にとってはとてつもなく難しいことなのです。

貿易による競合製品の流入や技術革新の影響を受けて、企業が苦境に陥ったとしましょう。だからといって中高年社員をねらいうちして「他で仕事を見つけるか、ご自身で新たなスキルを身につけてください」というのは理不尽だと思います。企業は、これらの社員が再就職も再訓練も難しい世代であることを理解するべきです。さらにこうしたレイオフは中高年社員の健康を著しく脅かす恐れさえあるのです。(注:『絶望を希望に変える経済学』では勤続年数の長かった人が解雇されると、その後数年で死亡する確率が高まるという調査結果を紹介している

私たちは社会全体として、打撃を受けた企業の中高年社員がスムーズに次の仕事に移れるような方法を考えなければなりません。私は何も倒産寸前の企業をすべて国が救うべきだと言っているわけではありません。この年齢層が新たなスキルを獲得するのは難しいことを前提に、今持っているスキルを生かしつつ、次の仕事へスムーズに移行していけるような方法を検討することは価値があると言っているのです。

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