
はちみつの採蜜シーズンは花が咲きはじめる4月から6月が最盛期。まさにこれからがミツバチと養蜂家の繁忙期となる。今年採れたはちみつが出回るのは、繁忙期が一段落した7月過ぎごろから。多くの食品がそうであるように、はちみつも鮮度がよいほど香りが高い。今回は花違いで東京産、岩手産、青森産のはちみつを取り寄せた。
岩手「藤原養蜂場」皇居周辺の桜から、岩手のラベンダーまで
まずは、藤原養蜂場(岩手県盛岡市)が手掛ける皇居周辺蜜をご紹介する。東京・四谷のフランス料理店「オテル・ドゥ・ミクニ」の三國清三シェフのYou Tubeでも時折登場する皇居周辺蜜は、皇居から直線距離にして1kmほどの千代田区や港区内にあるビルの屋上で、20年ほど前から始まった都市型養蜂を代表するはちみつだ。現在は神保町のすずらん通りにある東京堂書店の屋上に巣箱を置き、3月半ばから5月半ばまで養蜂活動を行っている。
皇居周辺蜜は毎年、桜からスタートする。巣箱が設置されている神保町は、おとなり九段下の千鳥ヶ淵など、都内有数の桜の名所に近いこともあり、4月は採蜜の最盛期となる。

「巣箱から取り出したばかりの桜のはちみつは、桜餅をかじっているような香りがします」と採れたてはちみつの香りを表現するのは、都市型養蜂の第一人者でもある藤原誠太さんだ。今回取り寄せた桜のはちみつに同じ香りは見つけられなかったが、花の中に顔をうずめたミツバチとはこんな気分かと思うほど、蜜の香りは濃厚だ。しかし、質感はさらっとしていて、冷たいヨーグルトにもスーッとなじむ軽やかさ。ヨーグルトの酸味と合わさるとフルーティーな甘酸っぱさが口の中に広がった。

藤原さんが東京で養蜂活動を始めるきっかけになったのは、ゆりの木が最初だった。ゆりの木は、明治初期にアメリカから入ってきた植物で、雨が木に触れて地面に落ちるまでの間に、酸性雨をアルカリ性に変える特性を持っている。環境保全のため都市部に植えられることが多い木で、山間部にはむしろあまりない木でもある。岩手県では40年以上前から研究と植樹が盛んで、クセのない蜜がたっぷり採れることで、採蜜活動も早くから盛んだった。
そのゆりの木が県外のしかも、皇居周辺にたくさん植えられていることに気づき、藤原さんは2001年から、ビルの屋上での採蜜活動をスタートさせた。明治から続く養蜂家の3代目に生まれた藤原さんは、学生時代、盛岡市内のビル屋上で養蜂を試みた経験があり、すでにノウハウはあった。数年後には銀座のはちみつプロジェクトからも声がかかり指導を手掛けるなど、都市部の町おこしとして養蜂が注目されるきっかけを作った1人でもある。