そのため法曹界では女性弁護士が働きやすい環境を整える動きが進む。日本弁護士連合会は19年から、育児期間中の会費免除期間を従来の半年から1年間に延長した。小規模な事務所の弁護士は個人事業主が多く、出産や育児に伴う休業中に無収入になるケースもある。経済的に不安定になりやすい会員を、性別問わず支援するねらいだ。
大阪弁護士会も3月に会費免除制度を改正。これまでは育児休業中の弁護士が対象だったが、休業しなくても育児をしていれば1年間の会費免除が受けられるようにした。
15年からは刑事当番の午前・平日枠も設置している。刑事当番とは、逮捕された人が無料で弁護士から助言を受けられる制度だ。当番弁護士は連絡が入ると、警察署などに接見に行く。だが夕方にかかると保育園の迎えや夕食準備と重なるため、子育て世代は業務に就きづらかった。
そこで平日の午前中に電話が来た場合のみ稼働するという当番枠をつくり、育児中の弁護士も業務を続けられるようにした。
法科大学院も志望学生を支援

環境整備が少しずつ進む一方で、司法試験合格者の女性割合自体が低い、という問題もある。21年は27.8%だった。
「『女の子が法律家なんて固い職業に就く必要はない』と親に反対された」「在学中に出産したら司法試験に合格できないのでは」
早稲田大学法科大学院の石田教授によると、女性は法学部や法科大学院への進学を反対されたり、入学後も男子学生と比べて家事やケア労働を期待されたりするケースが多く「何重もの困難や不安を抱えている」という。
同法科大学院は15年度から「女性法曹輩出促進プロジェクト」を実施する。女性法曹によるシンポジウムや学生との交流会、出産して休学する学生も含めた学びの支援を柱に、女性の入学者増と司法試験合格者増を目指す。
シンポジウムには法科大学院を修了した女性法曹が登壇。中高生や学部生も参加できる。参加した学生らからは「将来の目標が鮮明になった」などの感想が寄せられたという。交流会「おしゃべりカフェ」は、女子学生が身近にロールモデルを持つことを目的とし、家庭との両立などについてOGらに質問できる場だ。
学びの支援では、出産後に休学している学生にオンラインでOB・OGが論文の指導などを行う。出産直後の復学が難しく、ブランクが空くことに不安を感じる学生は多い。モチベーション維持のためにも有益だという。
同法科大学院の女性入学者は増加傾向で、22年度入学者のうち女性は42.7%にあたる79人だった。石田教授は「女性の司法試験合格者も増えていくのではないか」と期待を寄せる。
日弁連男女共同参画推進本部の佐藤倫子弁護士は、女性弁護士割合が伸び悩む背景として「女性の就職口が限られていた時代は、資格を取れば活躍できる法曹は魅力的な職業だったが、企業やNPOなど女性が活躍できる分野が増え、相対的に人気が下がったのでは」とも推測する。
一方で、上場企業2社の社外取締役を務める金野志保弁護士は「取締役会の多様性を高めると監督機能が向上する。社外取締役としての女性弁護士のニーズは高まっている」と話す。社外役員や企業内弁護士、スクールロイヤー、自治体で働く弁護士など、活躍の場が多様化している点を、学生らに周知していくことも重要だろう。
(船橋美季)
[日本経済新聞朝刊2022年6月20日付]