創業130年、トスカーナの肉料理店でボッリート学ぶ

同店では、タラ、エビ、ムール貝を使った魚のボッリートも用意。イタリア版ブイヤベースだ

店では、皿洗いから始まり料理を学んだ。しかし、最初は生活をするための仕事。次のステップへと進む原動力は、イタリアで働く日本の料理人たちの集まりに顔を出したときに生まれたという。「日本の有名店で働いていた、ミシュランの三つ星レストランを回ってきたなど、すごい経歴の人たちがたくさんいたんです。話を聞きながら、自分も負けたくないと思いました」。さまざまな店で経験を積み、帰国するまでに5年の月日が経っていた。

そしてイタリアで勤めた店の一つ、130年の歴史を持つトスカーナの肉料理専門店で、印象に残った料理がボッリートだったのだ。

地域によってバリエーションがあるそうだが、「基本は、香味野菜と一緒に肉を水から煮込むだけ。野菜はタマネギ、ニンジン、セロリ。塩ゆでです」と辻さん。ゆでただけの肉がこんなに軟らかくなり、おいしいなんてと驚き、日本で伝えたいと思ったという。もちろん、「ゆでただけ」といっても、そこはさすがイタリア。使う肉は、サルシッチャ(イタリアの生ソーセージ)、牛タン、牛スネ肉、鶏モモ肉などとバラエティーに富む豪快な内容。「私がいた店では、鶏、牛、豚の3種類を合わせていました」と辻さん。「1つの皿で1度に味わいが違う肉を楽しめるのが最大の特徴なんです」

「YUKA伊」のボッリートにも、ぎゅうぎゅうに3種類の肉が入っている。鶏モモ肉、牛スネ肉にオリジナルレシピによる豚肩ロースのサルシッチャだ。「一番難しかったのが鶏肉の選定です。インパクトがあるモモ肉が欲しかったんですが、これと思った銘柄鶏のモモ肉が、みな大きすぎて鍋に収まらなかった。10数種類試して、ようやくたどり着いたのが、山陰地方のブランド鶏『大山(だいせん)どり』でした」(辻さん)

鍋の後には、ボッリートのスープをたっぷり吸ったパスタも楽しめる

「ゆでるだけなら、うちでもできそう」なんて思われそうだが、実は、同店の鍋はシンプルな現地の調理法とは異なり3種の肉は鍋に入れる前に別々に火入れをしている。「シンプルに見えるのに、家庭ではできない。どう作るのだろう? という料理にしたかった」からだ。

鍋に用いる液体も水ではなく、大山どりの骨肉、香味野菜に加え、羅臼昆布、シイタケの軸、内臓の苦みのないニボシからだしをとったスープを用いる。このスープで、鶏モモ肉は真空調理(食材を真空パックして低温で加熱する調理法)。肉が最もおいしくなるよう何度も試作を繰り返し、ベストの時間を割り出したそうだ。一方、牛スネ肉は、水と赤ワインで約4時間煮込む。「水だけで煮込んでみたんですが、赤ワインを入れた方がしつこくなかったんです」と、丁寧においしさを追求する。

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シンプルな味付けのイタリア肉鍋は、ソースで味変!