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野生動物と共生するカナダ人 動物専用の地下道と橋

ナショナルジオグラフィック日本版

ユネスコ世界自然遺産「カナディアン・ロッキー山脈自然公園群」の玄関口となるバンフ国立公園は、自然との調和を目指す観光地だ ©Paul Zizka

カナディアン・ロッキーの絶景を望みながらハイウェイを進んでいくと、目の前に巨大な橋が見えてくる。橋の下の2つの半円の中を人が乗った車が行き来し、その頭上をクマやオオカミなどの野生動物が渡っていく。誰がロッキーのあるじであるかを示すような光景だ。動物だけが渡れる橋「アニマル・オーバー・パス」には、1カ所あたり日本円で1億数千万円が投じられる。この橋こそ、カナダの人たちがロッキーで野生動物と共に生きていることの象徴といえるだろう。

橋がつくられたきっかけは、動物が犠牲になる交通事故の頻発だった。大西洋から太平洋までを結ぶ国道1号線「トランス・カナダ・ハイウェイ」が建設され、バンフ国立公園にも1962年以降、4車線のハイウェイが通過することになった。車が行き交うハイウェイを横切ることは、野生動物にとって文字通り命がけの行動だ。ハイウェイの開通後、車にはねられて命を落とす動物が毎年100頭近くに上るようになってしまった。

カナダの国立公園を管理する政府機関「パークス・カナダ」は、不幸な事故を防ぐためにハイウェイに沿って82キロに及ぶフェンスを設置した。おかげで交通事故は減ったものの、今度は別の問題が浮上する。動物が道路を横切ってロッキー山中を行き来できなくなったことで、生態系が分断されたのだ。特に、食物連鎖の頂点に立つクマやオオカミが自由に行き来できなくなることで生息域に偏りが出て、生態系のバランスを崩すことになった。

橋とトンネル

アニマル・オーバー・パスは、バンフ国立公園内に6カ所設置されている ©Paul Zizka

この問題の解決のため導入されたのが、ハイウェイの下を通る動物専用の地下道「アニマル・アンダー・パス」だった。パークス・カナダはこの地下道に砂をまき、着けられた足跡でどんな動物が通っているかを確認した。だが、わかったのは警戒心の強いクマやオオカミはあまりこの地下道を利用していないという残念な事実だった。このため1996年、今度はハイウェイの上に架かる「アニマル・オーバー・パス」を建設した。

最初の夏、クマは1頭もこの橋を通らなかった。クマが橋を見つけなかったのか、あるいは橋を警戒していたのか。2シーズン目もクマが橋を渡ることはなかった。市民からは国立公園に対し、計画時のアセスメントが足りなかったのではないかという批判の声が上がり始めた。そして迎えた3シーズン目。ようやくクマが橋を渡ったことが確認され、バンフの新聞はこの出来事を一面トップの記事として紹介した。その後、オーバー・パスとアンダー・パスは動物たちの通路として定着し、野生動物と車の衝突事故は80パーセント以上も減少した。

このバンフ国立公園での成果を見て、野生動物の移動を妨げてはならないという考え方を周囲の町も取り入れ始めている。バンフ観光の恩恵を受けて急成長を遂げつつあるのが、バンフに隣接するキャンモアだ。この町でも、バンフでの生態系保全のノウハウに基づきアニマル・アンダー・パスを建設した。さらにアニマル・オーバー・パスの建設も予定されている。

北米大陸に広がる

クマなどの野生動物は橋ができたことでハイウェイをまたいで移動できるようになった ©Travel Alberta

カナダ最初の国立公園として生まれたバンフ。国立公園には、ここからここまでという境界線がある。しかしその「線」は、当然ながら、カナディアン・ロッキーの自然にとっても、ここで生きる野生動物にとっても意味がない。さらに生態系を守るべき国立公園のど真ん中にハイウェイを通しフェンスで線を引いてしまったが、野生動物が減少して自然が損なわれることは、観光地としての価値を損なうことにもつながる。バンフの人たちはその間違いを正すために地下道や橋を建設し、クマが橋を渡った時には新聞が一面で扱うほど人々は喜んだ。人間が自然の中に引いた線を残しつつも、共生のために編み出した方法がうまくいったのだ。

国立公園の境界という線が動物にとって意味のないものであるのと同様に、カナダの州と州の境も、カナダと米国との国境も動物にとってはやはり無意味な存在だ。そこで今、カナダ北部のユーコン準州からカナディアン・ロッキーを通って米国のイエローストーン国立公園までつながる野生動物の移動ルート「ワイルドライフ・コリドー(緑の回廊)」を守ろうという取り組みが始まっている。人間の生活圏によって動物たちの移動ルートが分断されたとしても、野生動物の生息地の間をつなぎながら移動できる道を確保しようという試みだ。

バンフの人々は、野生動物との共存の道を開いたことで動物たちの生息域を守った。その結果、観光地としての価値を高めることにも成功した。そのノウハウが国をまたいで、今、大陸レベルで広がりつつある。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

著者 半藤将代(はんどうまさよ)
早稲田大学第一文学部卒業後、トラベルライターやイベント・コーディネーターとして十数カ国を訪問。その後、アメリカに本社を置くグローバル企業で日本におけるマーケティング・コミュニケーションの責任者を務める。 1999年、カナダ観光局に入局。日本メディアによるカナダ取材の企画やコーディネートに取り組む。2014年には、単なる観光素材の紹介にとどまらない新たなコンテンツ・マーケティングの可能性を開くため、オリジナルコンテンツを満載したウエブサイト「カナダシアター」を開設。カナダの文化や歴史、アートなど、あらゆる分野の読み物や動画を活用して多彩なストーリーを展開した。2015年、カナダ観光局日本地区代表に就任。通年でのカナダ観光の促進や新しいデスティネーションの商品開発を推進。現在は、ニューノーマルにおける新しい観光のあり方を模索している。