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カナダ最東端のフォーゴ島 住民総出で観光客もてなす

ナショナルジオグラフィック日本版

竹馬のような足で立つフォーゴアイランド・イン。 タラをさばく小屋の工法が採用されている ©Bent René Synnevåg

新型コロナウイルスによって甚大なダメージを被った観光地が立ち直るための1つのヒントが、日本から遠く離れたカナダ最東端の小さな島にある。北大西洋に浮かぶ最果ての島フォーゴ島(Fogo Island)。この島は、観光客と住民が共感でつながり、信頼し合って一緒につくりあげる観光を実現している。

フォーゴ島は面積が石垣島とほぼ同じ、住民わずか2500人にすぎない小さな島。観光スポットもなければ、カヌーやスキーのようなアクティビティーもない。そんな場所にカナダの首相一家やハリウッドスターら世界のセレブが観光で訪れる。ここは世界の観光業界が注目する島なのだ。だが、ここはほんの30年ほど前、政府からも島民からも見捨てられたような場所だった。

この島では、およそ400年間にわたって、Cod(コッド)と呼ばれるタラを獲ることが唯一の生業だった。しかし乱獲が進み、1960年代に外国の大型船が最後のタラを一網打尽にした結果、タラはまったく獲れなくなってしまった。漁師たちは生きるための糧を失い、多くの住民が故郷をあとにする。そして1992年、政府はついに資源保護のためタラ漁の禁止を宣言した。

ところが今から10年ほど前、フォーゴ島は観光の力を使って劇的な復活を遂げた。起爆剤となったのは、不思議な形をした高級ホテル「フォーゴアイランド・イン」。かつて漁師の父とともに島を去った1人の少女、ジータ・コブがビジネス界で成功を収めて島に戻り、さまざまな協力と支援を得ながらホテルを建設し、島の再建に着手したのだ。

経済成分表

フォーゴアイランド・インの客室のキルトをつくる。島の主婦たちは手仕事の達人だ ©Mark Bennett

ジータが目指したのは、コミュニティーのための観光だ。フォーゴアイランド・インは、フォーゴ島の復興を目標に掲げた社会的事業として経営され、利益のすべてをコミュニティーに再投資する。ホテルの利益は、島の人々の幸福と健康のために直接使われるのだ。

その一環で、フォーゴアイランド・インは「エコノミック・ニュートリション」、日本語に訳すと「経済成分表」なるものを宿泊客に開示している。例えば食品や飲み物のパッケージには、カロリーやカルシウムといった栄養成分が表示されている。情報提供を通じて消費者に納得いく選択をしてもらうのが目的だ。この栄養成分表のように、フォーゴアイランド・インの経済成分表には、宿泊料や工芸品などの料金にどのようなコストが含まれており、売り上げがどのように使われるのかが記されている。

SDGs(持続可能な開発目標)が関心を集めるなか、何かを購入するときに、地球環境や地域社会に貢献できる商品やサービスにお金を使いたいと考える人は多いだろう。しかし一方で、自分が支払ったお金が何に使われるかは、なかなかわからない。フォーゴアイランド・インでは、自分がこの島に来たことで誰の役に立ち、どうコミュニティーに生かされているのかが実感できるのだ。

アーティスティックなホテルは、「ローカル×グローバル」「伝統×モダン」など、対極のものがクロスするというコンセプトのもとに設計されている。だからホテルの外観はクールだが、館内に一歩足を踏み入れると温かみのある内装や手作りの家具、ラグ、キルトのベッドカバーなどにあふれている。こうしたものはすべて、島の人たちの手によるオリジナルの作品だ。

コミュニティー・ホスト

島の人たちは、昔から野外で火を焚いて昼食を楽しんできた。コミュニティーホストと楽しむ人気の”ボイルアップ・ランチ“

そしてユニークなのは、ホテルが導入している「コミュニティー・ホスト」という仕組み。宿泊客がやりたいことや知りたいことをホテルに相談すると、自分の関心にぴったり合った島民を紹介してくれる。島の歴史を知りたいといえば歴史に詳しい住民が、ハイキングがしたいと言えば島のトレイルに精通した住民が、写真を撮りたいと言えば島の風景や撮影ポイントを知り尽くした住民が案内人になってくれる。観光アトラクションなど何もないこの島を魅力的にしているのは、住民たちにほかならない。コミュニティーみんなで所有するホテルのおもてなしが、世界の富裕層の心をしっかりとつかんだ。フォーゴアイランド・インは1泊16万円を超える高級ホテルだが、数カ月先まで予約でいっぱいだ。

「観光の力」によって故郷を再生させた島の人たちは、ホテルのスタッフとして、工芸家や職人として、島の文化や歴史の語り部として、ホストとなりプレーヤーとなった。そして彼らは、400年間島の暮らしを支えてきたタラ漁も取り戻そうとしている。資源状況を見極めながら、魚にダメージを与えないサステナブル(持続可能)な漁法で獲られたフォーゴ産のタラは、ブランド魚として高値で取引されるようになっている。

都会に出ていった住民も、愛着のある故郷に戻って来れるようになった。島にほれ込んで住み着く移住者も増えている。フォーゴ島が成し遂げた奇跡は、深く傷ついたコミュニティーであっても「観光の力」で復活できることを教えてくれる。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

著者 半藤将代(はんどうまさよ)
早稲田大学第一文学部卒業後、トラベルライターやイベント・コーディネーターとして十数カ国を訪問。その後、アメリカに本社を置くグローバル企業で日本におけるマーケティング・コミュニケーションの責任者を務める。 1999年、カナダ観光局に入局。日本メディアによるカナダ取材の企画やコーディネートに取り組む。2014年には、単なる観光素材の紹介にとどまらない新たなコンテンツ・マーケティングの可能性を開くため、オリジナルコンテンツを満載したウエブサイト「カナダシアター」を開設。カナダの文化や歴史、アートなど、あらゆる分野の読み物や動画を活用して多彩なストーリーを展開した。2015年、カナダ観光局日本地区代表に就任。通年でのカナダ観光の促進や新しいデスティネーションの商品開発を推進。現在は、ニューノーマルにおける新しい観光のあり方を模索している。