ナイアガラパークス水力発電所―100年前の再生可能エネ体感

発電機が並ぶ「ナイアガラパークス水力発電所」

カナダの特徴を表す共生も、ナイアガラの滝に息づいている。その象徴が水力発電所だ。ナイアガラの滝のカナダ側には1905年に「カナディアン・ナイアガラ発電所(CNP)」が設立された。電気自動車メーカーの米テスラの名前の由来にもなった技術者ニコラ・テスラの技術を使う当時最先端の大規模発電所で、「カナダの工業化に大きく貢献した」(ナイアガラパークスのマルチェロ・グロッソさん)とともに、地域住民の電力需要をまかなってきた。ナイアガラの滝は世界的な観光地であるだけでなく、地域住民やカナダの工業化のための重要なインフラでもあったわけだ。

ナイアガラの滝周辺では稼働中の「サー・アダム・ベック水力発電所」が電力供給量を増やしていることもあり、CNPは2006年に稼働を停止した。しかし、共生の旗を降ろしたわけではない。2021年7月に観光施設「ナイアガラパークス水力発電所」に「再生」し、水力発電所の歴史を伝えている。

生まれ変わった新しい施設に入ると、青い発電機が整然と並ぶ。施設内では往年の発電所の様子を体感できるほか、パネルなどのインタラクティブな展示物を通じて、100年以上の発電所の歴史や設立当時の最先端の技術を知ることができる。夜間には最先端の3Dプロジェクションマッピングを通じて、幻想的な音響と映像を楽しむことができる。

カナダ建国記念日にあたる7月1日には、新たな施設が追加される。発電に使われた水が再び川に戻る過程を体感できる「ザ・トンネル」だ。

「ザ・トンネル」の出口からはナイアガラの滝が間近に見られる(写真はナイアガラパークス提供)

「発電に使われる水になったと思ってください」。グロッソさんはそういうとエレベーターに乗り込み、地下10階、地上から約50メートル下に連れて行ってくれた。ドアが開くと直径約8メートルのトンネルに出る。ひんやりとした空気に包まれ、レンガで作られたトンネルを出口に向かって700メートルほど歩くと、眼前にナイアガラの滝が迫る。発電に使われる水は地上から落下し地下のトンネルに到達、トンネルを通ってナイアガラの滝のふもとの川に流れこむという、100年以上前の水力発電で使われたトンネルシステムがそのまま体感できる。

「私たちは発電に使った水を何も変えずに再び川に戻してきたのです」(グロッソさん)。観光客は再生可能エネルギーがどのように作られているかを体感するとともに、ナイアガラの滝の壮大さと美しさをそのふもとから見ることができる。

「発電に使った水を何も変えずに再び川に戻してきた」と話すマルチェロ・グロッソさん
「環境と観光の両立を追求しています」と話すナイアガラパークスのデビッド・アダムスCEO

「環境と観光の両立を追求しています」。ナイアガラパークスのデビッド・アダムスCEOはこう話す。カナダは電力供給量の半分以上を水力でまかなう、再生可能エネルギーの先進国。ナイアガラパークス水力発電所は、カナダが目指す共生を象徴する施設といえる。

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