ナイアガラワイン―移民とユニークな気候が醸す味わい

ライフ・エステート・ワイナリーはドイツからの移民が始めた(写真はライフ・エステート・ワイナリー提供)

「地下鉄道」の終着駅であるフォートエリーを北上し、ナイアガラの滝を通ってナイアガラ・オン・ザ・レイクに向かう約55キロメールの道は、英首相ウィンストン・チャーチルが「世界で最も美しい日曜日の午後のドライブ」と称した道だ。英国風の古い町並みで人気のナイアガラ・オン・ザ・レイクのオンタリオ湖沿いには多くのワイナリーが点在する。このワインにもナイアガラ地域の特徴が表れている。

この地域は、オンタリオ湖に沿うように続く「ナイアガラエスカープメント(断層)」の段差が壁となり、オンタリオ湖からの風を湖畔一帯に循環させることで、段差の下の平地と斜面一帯に、夏は涼しく冬は温暖というワイン作りに理想的な気候を作り出している。そうした気候に注目した移民が1970年代にワイン作りを始めた。現在、ワイナリーの数は60以上にまで増えた。

「ライフ・エステート・ワイナリー(REIF ESTATE WINERY)」はそうしたナイアガラワインの歴史を作ってきた1つ。ドイツで長くワインを作ってきた家族が1977年にこの地でブドウ栽培を始め、1982年にワイナリーを創設した。現在では数多くのワインの賞を受賞している同地域の代表的なワイナリーだ。

ワイナリーと中庭を通り抜けると目の前にブドウ畑が広がる。畑の広さは125エーカーに達する。ワイナリーには数多くの種類のワインが並び、いくつものテイスティングルームでワインを楽しめる。

「持続可能なワイン作りを進めている」と話すジェフ・ウェイアーさん

「製法だけでなくナイアガラの気候と土壌が私たちのワインをユニークなものにしてくれる」と同ワイナリーのジェフ・ウェイアーさんは話す。

カナダならではのアイスワインがお目当ての観光客も多い。アイスワインとは冬の真夜中、気温がマイナス8度以下になった段階で収穫したブドウでつくるワイン。1粒から果汁1滴しかとれないといわれる「凍った大理石を砕くような作業」(ウェイアーさん)から生まれるワインは凝縮された芳醇な甘さと香りが特徴だ。

ワイナリーではワインの生産工程も見学できる。地下室に入ると、最先端の設備の横の部屋には多くの樽が並べられワインが熟成の時を待っている。樽は使用後、家具にして再利用する。「持続可能なワイン作りを進めている」(ウェイアーさん)という。

ナイアガラの滝の横にある「テーブル・ロック」から滝を眺め、アトラクション「ジャーニー・ビハインド・ザ・フォールズ」で滝を下から見上げ、しぶきを浴びる。こうした体験はここでしかできない貴重なものであるのは確かだ。しかし、黒人移民の歴史や水力発電所などナイアガラをめぐる別のストーリーを知ると、壮大で美しいナイアガラの滝が違って見えてくる。ナイアガラの滝がカナダの象徴であるのは、景観だけでなく、自然との共生や多様性を追求してきたからに他ならない。

ナイアガラ・オン・ザ・レイクからオンタリオ湖をのぞむ(写真はオンタリオ州観光局提供)