日経ナショナル ジオグラフィック社

このほかにも、顔をモチーフにした水差しで知られるヘンダーソンビルの陶芸家ロドニー・レフトウィッチ氏、ペンランド近郊で活動するガラス作家のケニー・パイパー氏、アシュビルのテキスタイルデザイナー、バーバラ・ザレツキー氏などがトレイルにアトリエを構える。

ファリエロ氏はクラフト・トレイルズについて、「私たちは技術の保存を目指しています」と語る。「職人が自分の限界に挑戦し、作り続けられるようにすることで、職人により良い市場を提供できればと考えています」

曖昧になる工芸とデザインの境界

アシュビルから北に1時間、クラフト・トレイルズ沿いのスプルースパインという静かな町に、近くのペンランド・スクール・オブ・クラフトで出会った若いアーティストたちがトリーツ・スタジオズを設立した。2021年、1930年代に建てられた赤れんがの印刷会社の建物をグループで購入し、アトリエ、設備、ギャラリーを持つ新進アーティストのための共有空間に生まれ変わらせようとしている。

「この地域は工芸の多様性に富んでいます」と語るのは、立ち上げメンバーのシェイ・ビショップ氏だ。「さまざまな素材を扱う人々が発するエネルギー。そして、自分と異なる技術を持つ人々からアドバイスをもらったり、道具を借りたりできます。これらすべてが大きな助けになっています」。交流と実験を繰り返し、スタジオのメンバーたちは伝統工芸を新しい手法、ときには極めて革新的な方法で活用するようになった。

例えば、ビショップ氏は小さなセラミックタイルを組み合わせ、軽いよろいのような花柄のカウボーイチャップスやヘビがあしらわれたベストなど、衣服の彫刻を制作している。ビショップ氏が探求しているのは衣服による力、ジェンダー、集団アイデンティティーの表現だ。

同じくトリーツの立ち上げメンバーであるアニー・エブリン氏は木、発泡素材、布を重ねる昔ながらの手法で椅子をつくり、そこに装飾を施すことで、彫刻のような作品を生み出している。赤いシルクの裾を引きずる椅子、背もたれが花瓶になっている椅子などだ。

シェイ・ビショップ氏によるセラミックのカウボーイハット。ビショップ氏はノースカロライナ州スプルースパインにトリーツ・スタジオズを設立した若手作家の1人だ(PHOTOGRAPH BY LOAM)
トリーツ・スタジオズの立ち上げメンバーである家具作家のアニー・エブリン氏が制作した椅子。アッシュ材と細長いガラス瓶を組み合わせたもので、ガラス瓶には花を生けることができる(PHOTOGRAPH BY RHODA BEAR)

ノースカロライナ州のクリエーターはもはや単なる機能的なものづくりにとどまらず、芸術、工芸、デザインの境界を曖昧にしている。そして、その作品は全米の美術館、ギャラリー、個人のコレクションになっている。

ニューヨークのような物価の高い大都市に拠点を置くクリエーターと異なり、米国の青く縁取られた辺境に暮らす織物職人や陶芸家などの作家は、活気あるアートコミュニティーと理想的な生活の質を求めてここに集まってくる。

「産業革命とデジタル革命によって、人間の行動は様変わりしました」とビショップ氏は語る。「しかし、私たちは自分の手を使って探求したいという衝動に駆られています。私は、自分自身は工芸を守る歴史の一部だと考えているのです」

(文 MELISSA REARDON、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年6月7日付]