日経ナショナル ジオグラフィック社

この地域でつくられていた精巧な織物、キルト、バスケットなどの家庭用品は極めて上質で、東海岸の都市のバイヤーに高値で売れる可能性があった。女性慈善家たちは、熟練した職人が報酬を得て教育する機会をつくり、商品の販売を支援することで、今日まで続く強固な工芸品産業を確立した。

先駆者の1人がフランシス・L・グッドリッチ氏だ。グッドリッチ氏は1895年にアランスタンド・クラフト・ショップを立ち上げ、その後、サザン・ハイランド・クラフト・ギルドを創設。サザン・ハイランド・クラフト・ギルドは現在、米国の9つの州に900人以上の会員を抱え、ブルーリッジ・パークウェイでフォーク・アート・センターを運営している。そこには今もグッドリッチ氏の店があり、手彫りの木製ボウル、手吹きガラスのカップ、シルバーに複雑な細工を施したネックレスなどを販売している。

ノースカロライナ州西部にある2つの名高い工芸学校も同じ女性慈善家たちが設立したもので、初心者からベテランのアーティストまで、今も多くの人が授業を受けたり、校内のギャラリーで買い物したりしている。

ブラスタウンののどかな谷間に位置するジョン・C・キャンベル・フォーク・スクールは、1925年の開校以来、週末と1週間のクラスを何百も提供している。学生はキャンパスに滞在し、復元された1930年代のバンガローや現代的な寮に寝泊まりしながら、皆で食卓を囲んだり、頻繁に行われるコンサートを楽しんだりできる。

ペンランド・スクール・オブ・クラフトで鉄工を学ぶ鍛冶職人の卵(PHOTOGRAPHS COURTESY OF PENLAND SCHOOL OF CRAFT)
ペンランド・スクール・オブ・クラフトは吹きガラス(写真)、鋳込み、フレームワークを学ぶガラスプログラムで有名だ(PHOTOGRAPHS COURTESY OF PENLAND SCHOOL OF CRAFT)

アシュビルから北東に約1時間、バーンズビル近郊にあるペンランド・スクール・オブ・クラフトは、1923年の設立以来、粘土、テキスタイル、ガラスなどのクラスを開催している。森や山麓の丘に20世紀初頭の建物が点在し、石壁のコテージでは工芸品が販売されている。アーティストの作品を販売するギャラリーもある。

「1890年代から1945年ごろに起きた工芸運動がノースカロライナ州西部を形づくりました」とファリエロ氏は説明する。「それが現在の活況の大きな理由であることは間違いありません」

バンコム郡だけで16億ドルを創出

そうした工芸学校が今、地域の創造的なエコシステムを活気づけている。作り手が技術を学び、磨くのを助けるだけでなく、ノースカロライナ州西部に暮らす何千人ものアーティストを支えるコミュニティーを育んでいる。

これらすべてが手作りの良さを理解する住民や旅行者を呼び込んでいる。そして、アートを中心とした経済がさらに多くのアーティストを引き寄せている。年間1100万人以上が訪れるアシュビルは、クラフト・トレイルズを象徴する存在だ。2019年の調査によれば、アシュビルがあるバンコム郡だけで、工芸が生み出す産業によって16億ドル(約2000億円)を創出している。

クラフト・トレイルズのクリエーターたちはアシュビル以外にも工芸ファンを導き、小さな町の経済を活性化させたいと考えている。トンプソン氏は、自分のスタジオを訪れる人がいれば、「私たちの文化や歴史、アイデンティティーについて知ってもらい、私たちが変化、進化してきたこと、今もここにいることを示す機会になります」と語る。

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曖昧になる工芸とデザインの境界