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アマチュア暗号研究者が解明した 女王メアリーの秘密

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ナショナルジオグラフィック日本版

スコットランド女王メアリー・スチュアート(1542〜1587)は、秘密のメッセージを送る達人だった。暗号解読者たちは何世紀にもわたって彼女の暗号技術に悩まされてきた。彼女が残した手紙が解読されるたびに、学者たちはそこに記された情報に胸を躍らせてきた。

特に重要な手紙は、彼女がイングランドで19年にわたって幽閉されていた時期に書いたものだ。メアリーはフランスの高官に数十通の秘密の手紙を書いていて、なかには、スコットランド女王の座を取り戻し、従姉妹(いとこ)であり政敵でもあるイングランド女王エリザベス1世を廃位させる陰謀に関する機密情報も含まれていたと考えられている。

何世紀もの間、学者たちはこれらの手紙は誰の手も届かないところに隠されているか、すでに破棄されていると考えていた。ところが、このほど3人のアマチュア暗号解読者が、それが誤りであることを証明した。

イスラエル在住でフランス人のコンピューター科学者であるジョージ・ラスリー氏、ドイツ人のオペラ教授であるノーバート・ビールマン氏、日本人の物理学者である友清理士氏の3人は、最近、メアリー・スチュアートが暗号で書いた50通以上の手紙を発見した。使われていたのは彼女自身が考案した洗練された暗号で、文字数の合計は5万字にも上る。3人の"探偵"は、コンピューターソフトウエアと伝統的な暗号解読技術を巧妙に組み合わせてメアリーの暗号文を解読し、彼女とその政治的環境について多くの新情報を明らかにすることに成功した。

激動の時代を生き抜く知識

1542年に生まれたメアリーは、イングランド王位継承順位第2位を持ち、生後わずか6日でスコットランド女王となった。5歳でフランス王太子フランソワと婚約し、その後間もなくフランスに渡った。フランスの宮廷で教育を受けたメアリーは数カ国語を流暢(りゅうちょう)に話し、政治理論も学んだ。フランソワの母のフランス王妃カトリーヌ・ド・メディシスは、メアリーに国際外交術とスパイラルレターロッキング(手紙を複雑に折りたたんで封じる方法)を教えた。

メアリーは、1559年から夫が死去する1560年までのフランス王妃としての短い在位中に、この2つを習得した。

米インディアナ州にあるボールステイト大学の歴史学教授で『シックスティーン・センチュリー・ジャーナル』の編集者でもあるジェニファー・デシルバ氏によれば、メアリーが生きた16世紀は宗教改革によって神聖ローマ帝国と貴族派閥の対立が激化しており、秘密保持の必要性が高まっていたという。

「1560年以降は政治的に不安定で、イングランドとスコットランドでは緊張が高まりました。スペインも、婚姻やスパイ活動や侵略によってカトリックの領土を確保しようとしていました。そんな時代を生き抜くためには、暗号で身を守る必要があったのです」とデシルバ氏は説明する。

「秘密の手紙」を巡るスパイ活動

フランソワが病死したため、メアリーは1561年にスコットランドに帰国、1565年にダーンリー卿と再婚した。ところが、お気に入りの秘書リッツィオを夫に殺害されてしまった。そのダーンリー卿は1567年にボズウェル伯によって暗殺されてしまう。これに関与していたとされるメアリーはボズウェル伯と結婚したが、まもなく貴族たちが反乱を起こし、彼女は廃位されることとなった。1568年、メアリーは、従姉妹に当たるイングランドのエリザベス1世のもとに逃げ込んだ。しかし、メアリーは、長年イングランドの王位奪取を目論んでいると疑われていた。このため、エリザベスは彼女を軟禁し、王室のスパイであるフランシス・ウォルシンガムに監視を命じた。

ウォルシンガムはメアリーとフランス宮廷との間で交わされた手紙を傍受するため、フランス宮廷内にスパイを送り込み、いくつか入手することに成功した。その1つが、1586年にエリザベスを暗殺しようとした陰謀にメアリーが関与していたことを示す有名な暗号文だった。この手紙によりメアリーは処刑されることになり、学者はメアリーが暗号を使用していたことを早い段階から知ることになった。

ウォルシンガムのスパイは駐英フランス大使ミシェル・ド・カステルノーが書いた手紙も入手しており、そこにはメアリーがさらなる秘密の手紙を書いていたことが繰り返し記されていた。しかし歴史家たちは、これらの密書はド・カステルノーによって巧妙に隠され、永久に失われたものと思っていた。

ところが、これらはフランス国立図書館に保管されていたのである。

余暇を楽しむつもりが・・・

2018年、ラスリー氏はフランス国立図書館が所蔵するデジタルコレクションを閲覧して、余暇に解読できそうな未解決の歴史的暗号文を探していた。そして、16世紀初頭のイタリア語の書簡を集めたファイルの中に、一連の手紙を発見した。この暗号文は、すべてが記号(複雑に蛇行する線や曲線、ラテン文字やそのバリエーションなど)で書かれていたため、いつ誰が書いたものなのか、その内容が何語で書かれているのか、何も分からなかった。そこで彼はビールマン氏と友清氏に協力を仰ぎ、暗号解読に着手した。

3人のアマチュア暗号研究者は、友清氏が運営する歴史的暗号を扱うウェブサイト「Cryptiana(クリプティアナ)」の投稿仲間で、それまで直接会ったことはなかったという。

「これらの暗号がメアリーによって書かれたことなど誰も知りませんから、学者たちには暗号を解く動機はありませんでした」とラスリー氏。「解こうとするのは、私たちのような暗号好きの変人だけでしょう」

3人はまず、暗号の15万個の文字を現代のコンピューターが認識できる記号に書き換えることに取り組んだ。これらの文字が191種類の記号から構成されていたため、アルファベットのそれぞれに1つの記号を割り当てるのではなく、解読がより困難な1つのアルファベットに複数の異なる記号を割り当てる方法で作られていると推定した。

文章を解読するため、3人はAI(人工知能)を使って暗号を解くプログラムにかけてみた。ただし、このプログラムを作動させるうえで、元の暗号が何語かを指定する必要がある。暗号が最初に見つかった場所からと、ラスリー氏はイタリア語と予想した。しかし、プログラムが生成する数千種類の単語からは、識別可能な言葉が1つも見つからなかった。

「ゴミだらけでした」とラスリー氏は言う。「次にスペイン語を、さらにラテン語を試しました。どちらもだめでした」

最後に、フランス語を使ってみた。ラスリー氏は、このプログラムは数十万、もしかすると百万以上の組み合わせを実行しただろうと推測する。その過程で、フランス語の「fils(息子)」や「Ma liberté(私の自由)」など、女性的な文法で書かれた、識別可能な言葉が現れ始めた。

「人が自分の自由について書くのは、自由でないときだけです」とラスリー氏は言う。「ですから私たちは、この手紙を書いたのは監禁されている母親だと考えました」

3人は識別可能なフランス語の言葉が見つかるたびに、その言葉をプログラムに組み込み、解読の精度をより高めていった。その結果、エリザベス1世のスパイであるウォルシンガムという名前に行き着いた。

「そのときから、手紙を書いたのはメアリーではないかと推測し始めました」とラスリー氏は話す。「けれども、その手紙を数人の歴史家に見せたところ、『そんなことはあり得ない、時間の無駄だ』と言われてしまいました」

メアリーの謎を解く

3人の分析は数カ月に及んだ。しかし、コンピューターでは内容の3分の1程度しか解くことができなかった。彼らはこのとき、アルファベットの文字だけでなく、人名や単語の一部も暗号化されていることに気づいた。そこで3人は、既存のパターンと言語学的文脈に基づいて、手作業で空白を埋めようとした。ラスリー氏はこれを、世界で最も大きく、最も入り組んだクロスワードパズルに例えた。

「信じられないくらい時間がかかりました」とラスリー氏。「私たちは皆、本業を持っているので、このプロジェクトを進められるのは夜と週末だけです。丸1年かかりました」

解読を完了したラスリー氏は、英ケンブリッジ大学クレアカレッジの歴史学フェローで世界的に有名なメアリー・スチュアート研究者であるジョン・ガイ氏に結果を持ち込んだ。ガイ氏は、既存のメアリーの暗号と照らし合わせ、57通の手紙を本物と認めた。

「驚くべき研究成果です」とガイ氏は言う。「メアリー・スチュアートについてこれだけ重要な発見があったのは100年ぶりです」

ガイ氏をはじめとする歴史学者たちは、これらの手紙に記された膨大な内容を調べ始めたばかりである。すべて中世フランス語で書かれており、複雑な語法や構文から成る。 

すでに多くの歴史的大発見がなされている。多くの手紙に、エリザベス1世の顧問官を買収する試みやエリザベスとフランスのアンジュー公(メアリーの義理の弟)との結婚の画策など、メアリーの抜け目のない政治的策略が記されていた。スコットランドの王位を奪還するための努力やエリザベスの暗殺を企てた1583年のスロックモートン陰謀事件への関与について書かれた手紙もあった。

デシルバ氏は「詳細が明らかになるにつれて、メアリーの行動だけでなく、この時代のカトリック連盟の強さやヨーロッパ諸国間の歴史的緊張にも新たな光を当てることになるでしょう」と語る。

メアリーの暗号とその解読に関する詳細を記した解読チームの学術論文は、2月8日に暗号専門誌『Cryptologia』の特別号にて発表された。この日はメアリーが処刑された日でもある。

ラスリー氏は「手紙は非常に長く、複雑で、理解するのは容易ではありません」と言う。「歴史学者たちは、これから何十年も、この手紙の解明で忙しくなることでしょう」

(文 Kathryn Miles、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2023年2月10日付]

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