マグロやクエ…ネタ熟成にこだわるすし店 東京・広尾

dressing

2022/1/31
熟成35日目の「北海道羅臼産ブリ」

「今夜はすしにしよう」となった時、何を基準に店を選ぶだろうか。少々値が張っても安心の老舗、家近くのなじみ店などさまざまだろう。2018年9月にオープンしたこの店はまだ手がける人が少ない「熟成ずし」の専門店だ。

Summary
1.ネタは熟成した魚介のみ。まったく新しいすしをおまかせで味わう
2.うま味と香りを最大限に引き出す独自の技術をカウンター越しに体験
3.看板のないプレミアムな空間だが、気取りない雰囲気

総檜(ひのき)のカウンター内で、たくましい腕を振るいつつ迎えてくれるのは、大将の白山洸さん。「大阪ずし」を皮切りに江戸前ずし、そして熟成ずしを追求してきた29歳の新鋭すし職人だ。漁師家系に育ち、子供の頃の食卓は魚が中心で、「鶏肉の唐揚げが食べたい」と思い育ったという生い立ちがユニーク。

すしが好きで、「すし職人になれば毎日すしが食べられる」と思い、すし店に就職。しかし、修業中の身ですしをたらふく食べられるはずがない。

「給料が出たら、休日はすしの食べ歩きをしていました。ある日訪ねた店で、タイの食べ比べをさせてもらったんです。仕入れた直後のタイと、3日目のタイ。当然仕入れたばかりのほうがおいしいと思ったら、3日目のほうが断然おいしくて、びっくり。ということは1週間経てばもっとおいしくなるのでは? と、味の変化に興味がわいたんです」

当時18歳の白山さん。寮の部屋で鮮魚を並べ、30分おきに試食を繰り返し、味の変化を研究し始めた。「まだ熟成という言葉すら知らず、何が原因でどんな風に劣化するのか、知りたかったんです」。

以降、劣化と熟成の狭間(はざま)で、最高においしい瞬間を求め続けた。

熟成を指導してくれる師匠はいない。理論と経験に基づき、ただひたすら独学を続けてきたという。

ブリの産地は北海道から富山県の氷見へと続く

仕込み中をのぞいたら、ちょうど立派なブリをさばいている最中。

ブリは、白山さんが好きなネタの一つだ。産地は北海道から始まり、富山県の氷見へと続くが、こちらは北海道羅臼産。

「熟成をはじめて28日目です。これから塩漬けにしてあげるんです」と、大きくやさしい手で魚に触れる。

ていねいに包丁を入れながら、白山さんはゆっくり熟成についての説明をする。「熟成を続けると全体の3~4割は雑味になります。もったいないと思われるかもしれませんが、捨ててしまいます」。

熟成庫の温度は、0~5度。0度でうま味を引き出したのち、少し高くすると香りが出てくるという。また、例えば「ウニ」は低めが適正温度で、高くするとうま味も香りも出ないことなど、素材ごとの熟成の違いを習得している。

「一つひとつ状態を見ながら、1日1回はひっくり返し、しょっちゅう庫内を移動させています。僕が作りたいおすしは、こうして時間をかけて、魚介の本当のおいしさを引き出して握るおすしなんです」

シャリは、長野県飯山の小さな村で作っているコシヒカリ。秋晴れの空の下で天日乾燥したコメを、さらに半年寝かし、甘みが深まったものを使う。精米加減は、八分つき。さっと洗い0.8倍の水を加え、羽釜で圧力をかけて一気に炊き上げる。

「パツンと芯が残るくらいのタイミングで火を止めます」。

こうして理想通りに炊いたコメに合わせる酢は、京都府・天橋立近くで醸造される「富士酢」の「赤酢プレミアム」と「米酢」の2種類。これに、塩味がまろやかな広島産の藻塩を加えている。コメの味を引き出してくれるこの合わせ酢が、八分つきのコシヒカリになじむと、うっすらべっ甲色をしたシャリの完成だ。

このべっぴんなシャリと熟成魚が、大将・白山さんの手にかかると、どうなるのだろう。目の前に登場する熟成ずしをお目にかけよう。

白山さんの仕立てるコースは、熟成ずし・一品料理・熟成ずし・一品料理・熟成ずし・一品料理・巻物と玉(ぎょく)という、すし懐石のような構成で進む。熟成ずしは握りだけで合計15種類も登場するボリュームだ。