――2018年に40歳でオルビスの社長になられたとき、何から手を着けましたか。

「オルビスはすでに30年以上の歴史がありましたが、手ごろな通販化粧品というイメージが強かったんです。ポーラの研究所で作った良質でコスパが高いスキンケアなのに、他の通販化粧品と同類になるのは良くないと思い、リブランディングをすすめました。カタログで目立つように使っていたカラフルな色をやめ、コーポレートアイデンティティー(CI)やビジュアルアイデンティティー(VI)を変えていきました。店はグレーなどを効果的に使って商品を引き立たせ、ブランドとしての表現を重視したんです。そこで働く人もブランドを体現できていないといけません。でも、前の会社ではもっとカジュアルでしたよ」

「オルビスってもともとはポーラに反抗する会社で(笑い)。オイルリッチなポーラに対してオイルカットを打ち出したり、対面はプレッシャーを与えるからと通販にしたり。新卒のとき、そんな反逆精神を熱く語るオルビスの先輩にしびれました」

ワークとライフの境目 グラデーションが理想

――社内ベンチャーを立ち上げたときですよね。服装はどう変わりましたか。

「02年に新卒でポーラに入ったときはスーツで営業をやっていました。09年に同期と社内ベンチャーを作りました。いわゆるDtoC(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)、ECのブランドで、新規顧客はデジタルマーケティングで獲得し、付き合うのはIT企業ばかり。すると相手は皆Tシャツに短パンです。ああ、こういう感じなんだと。さすがに化粧品会社ですと短パンにサンダルまではいきませんでしたが、僕もTシャツにデニム、スニーカーはナイキやニューバランスといった具合になって……」

――コンサバな化粧品業界にあって異色の経験かもしれませんね。付き合う相手、取引先に自分の服装も合わせていくという意識でしたか。

「少し違います。今でこそECは当たり前ですが、13年ほど前は化粧品をECだけで売る企業はそうありませんでした。同僚と僕は化粧品会社の中でITベンチャーみたいなものを作っちゃおうという考えでしたから、マインドセットとか考え方とかは、ITベンチャーみたいなスピード感、ノリを意識していました。皆が自然とTシャツでやっていた感じです」

――服装によって発想が変わるともいいます。実感はありましたか。

「スーツを着て仕事をしていると、脱いだら仕事が終わり。オンオフがくっきりと分かれていた感じがします。ところがベンチャーではきれい事ではなくお金もないし、徹夜しないといけない日もたくさんある。スタートアップでは、自分の興味ややりたいことも含めて、プライベートなのか、仕事なのか境目なくやっていた。いわば、私服っていう概念なしにやっていたんです。僕はワークとライフの境目がグラデーションになっていることが、これからの企業にとっても必要だと思っているんです。自分が面白いこと、興味のあることが仕事に生かされている。それがパフォーマンスが上がることにもつながっていく。ポーラから出て、ベンチャーを作って青山に事務所を立ち上げたときはそれを強く感じました」

――Tシャツでがむしゃらにベンチャーで立ち上げた「ディセンシア」が成功しました。どんな発見があったのですか。

「ポーラに入社して最初はホテルアメニティーの部署にいたんです。経済的には失われた20年のど真ん中。自分が一生懸命提案した取引先の旅館やホテルがばんばん倒産した時代です。市場がせっぱつまっていた状況でしたが意外に会社はのんびりしていて、これではいけないと思っていました。ちょうど同期の研究員が、敏感肌用の化粧品に使うすごい技術を見つけたから社内ベンチャーを立ち上げるというので、僕はマーケティングで入って一緒にやったんです。働く女性が一気に増えた00年代ですが、ストレス社会で敏感肌の人が増えていた。買いやすくないとだめだから、ECで直販でやろう、とデジタルマーケティングで作った。それがディセンシアでした」

SUITS OF THE YEAR 2022
Watch Special 2022
SPIRE
次のページ
服装は「どんなブランドでありたいか」を映す