近視は大人になってからも進む 7人に1人は新たに発症
「近視は小学生のころに発生し、進行するもので、15~16歳を過ぎれば進みにくくなる」――。近視について、従来はそのような考え方が一般的でした。しかし、このほど報告された、オーストラリアの若い成人(18~22歳)を8年間追跡した研究[注1]で、成人後にも14%が新たに近視を発症し、もともと近視があった人も37.8%において近視が進行していたことが明らかになりました。
若い成人を長期間追跡し、近視の発症と進行の有無を調べた
これまでにも、20歳前後になってから近視を発症する患者がいること、進行も見られることを報告した研究はありましたが、社会人も含めた一般の若い成人を長期間追跡し、近視の発症と進行について検討する研究はほとんど行われていませんでした。
そこでオーストラリアWestern Australia大学などの研究者たちは、18歳から22歳の若者を追跡して、近視の発症と進行について調べ、それらと、近視の危険因子の関係を検討することにしました。
オーストラリアの一施設で、2010年1月から2012年8月の期間に、18歳から22歳の若者1328人を対象に初回の検査を行いました。その8年後となる2018年3月から2020年3月に、813人に対して再度同じ検査を行いました。
受診時には、眼科で一般に行われる検査に加えて、結膜紫外線自己蛍光(CUVAF)面積も測定しました。CUVAF面積は、屋外で過ごした時間を客観的に評価できる指標で、その値が大きいほど、すなわち、屋外で過ごした時間が多いほど、近視の有病率が低くなるとして近年海外で注目されています。また、初回受診の際に、質問票を用いて、学歴、両親の近視の有無、人種、眼疾患経験などの情報も収集しました。初回受診時と再受診時の両方で、必要な情報が記録されていたのは701人でした。
追跡期間中の、近視と強度近視の発症の有無と、近視や遠視の程度を示す「等価球面度数」(SE;屈折の度数と乱視の度数を総合したもの)、および、眼軸長[注2]の変化を調べました。SEが-0.50ディオプタ(D)[注3]以下なら「近視」、-6.00D以下なら「強度近視」とし、SEが-0.50D以上変化した場合に「屈折異常の進行あり」としました。
[注1]Lee SS, et al. JAMA Ophthalmol. 2022 Feb 1;140(2):162-169.(https://jamanetwork.com/journals/jamaophthalmology/fullarticle/2787671)
[注2]眼軸長とは目の表面にある角膜の頂点から、目の奥の網膜までの長さのこと。眼軸長が長いために目に入ってきた光が網膜の手前で像を結んでしまい、近視となっている場合を軸性近視という。
[注3]ディオプタは、近視、遠視、乱視といった屈折異常を完全に修正できるレンズの強度のこと。一般的な視力検査で用いられる0.7、0.3といった数値は、裸眼視力または矯正視力を示す。
8年間の近視発症率は14%、近視の進行も38%に認められる
データがそろっていた701人から、追跡期間中に屈折矯正手術(レーシックなど)を受けた人などを除外した上で、初回受診時に近視ではなかった516人(男性が50.6%)について、追跡期間中に近視を発症したかどうかを調べました。また、この516人に、近視だったが強度近視ではなかった人を加えた683人(男性が49.5%)を対象に、強度近視の発症の有無も調べました。近視の進行に関する分析は、691人(男性が49%)を対象に行いました。
8年間に516人中72人が新たに近視を発症しており、近視発症率は14%でした。また、5人が強度近視となっており、強度近視発症率は0.7%でした。さらに、近視の進行(少なくとも一方の眼で-0.50D以上進行)は、261人(37.8%)に認められました。
対象とした人々すべてを分析対象としても、近視関連の測定値は経時的に悪化していました。SEは統計学的に有意な悪化を示し(1年あたり-0.04D)、眼軸長も有意に伸びていました(1年あたり0.02mm)。
18歳以上の若者における近視発症と関係していた要因は、人種(白人に比べ東アジア人のリスクは6.13倍)、性別(男性に比べ女性のリスクは1.81倍)、屋外で過ごした時間を示すCUVAF面積が小さい(10平方mm減少あたりのリスクは9.86倍)、親が近視(親1人あたり1.57倍)でした。
近視の進行速度と眼軸長の伸長は、男性に比べ女性のほうが、また、親が近視の人のほうが早いことも明らかになりました。なお、学歴は近視の発症または進行と有意な関係を示しませんでした。
今回の研究で、小児期と比べるとその割合は小さいものの、18歳を過ぎても近視を発症する人は少なくないこと、また、近視が進行する人も多いことが明らかになりました。著者らは、「小児において現在検討されている近視予防法、たとえば屋外で過ごす時間を増やすことによって得られる保護的な効果は、成人後も続く可能性がある」との考えを示しています。
[日経Gooday2022年4月6日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
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