定期的に歯医者に行くことが最大の予防法
歯周病は、特に初期の頃は自覚症状があまりない。そのため、定期的に歯科医院に行くことが大切だという。
「ただ、日常的に大量飲酒をされている方は、歯医者に行くよりも、居酒屋に行って飲むことを選んでしまう傾向がありますよね(笑)。実際、アルコール依存症の患者さんは、虫歯や歯周病が進行しても、よっぽど痛みがなければ歯医者に行かないという方も少なくありません」(井上氏)
これを聞いて、歯が欠損した酒豪たちの映像が頭に浮かんできた。井上氏によると、「定期的に歯科医院を訪れようという意識があるうちは大丈夫」とのこと。筆者も早速、歯科医院に歯のクリーニングの予約を入れた。
「歯垢は、数日たつと石灰化して歯石へと変わってしまいます。すると、通常の歯ブラシによる歯磨きでは取れなくなるため、歯科医院で取り除いてもらわなければなりません。歯石も歯周病につながるやっかいなものなので、これを取ってもらうためにも定期的に歯医者さんに行きましょう」(井上氏)
特に注意したいのは、甘くて度数の高いあのお酒
ここまでの話で、アルコールの脱水作用による唾液の減少や、泥酔によって磨き残しが多くなることなどが口腔環境を悪化させることが分かった。
酒飲みとしてもう1つ気になるのは、「酒の種類によって、口腔環境への影響は変わるのか?」ということである。素人の考えでは、ワインやレモンサワーのように酸度が高い酒が、歯のエナメル質に影響を与えるのではないかと疑ってしまう。
「酸度の高いお酒よりも、歯垢のもととなる糖分がたっぷり入ったお酒のほうが口腔環境、特に虫歯にとってはダメージが大きいと言えます。大げさなことを言えば、そうしたお酒を飲んでいる数時間は、砂糖が口の中にずっとあるような状態なのですから。私がかつて診ていた患者さんでは、とても甘いお酒をケース買いしている方は虫歯だらけでした。甘いお酒が好きな方は注意が必要です」(井上氏)
昨今、コンビニの棚には甘いカクテル系の酒がずらっと並んでいるが、それを好んで飲む人は要注意だ。しかし、それ以上に井上氏が「あれは毒」と言う酒がある。
「アルコール度数が9%もあるストロング系のチューハイは、口腔環境はもちろん、体にとっても大きな負担になります。500mLのロング缶1本で、純アルコールにして36gですから、日本酒約2合分に相当するような量です。甘くて口当たりがいいので、飲み過ぎてしまう危険性もあります」(井上氏)
コロナ禍では、家で酒を飲む量が増え、値段が安くて入手しやすいことから、ストロング系を好んで飲むようになった人も少なくない。ましてや箱買いをしている人は、より注意が必要だ。糖により虫歯のリスクが上がるだけでなく、気がついたら脱水状態になって、口腔環境が悪化してしまう。
井上氏によると、「いずれにしても二日酔いになるまで飲むのは、口腔環境はもちろん、体にとっても大きなダメージになるので避けるようにしましょう」とのこと。一生健康で、おいしいものを食べながら酒を飲むためには、歯は特に大事にしたいもの。酒量も見直して、口腔環境を整えておくべきだろう。
次回は、歯周病菌が引き起こす恐ろしい全身の疾患や、歯に悪影響を与えない飲み方、具体的なケアの方法について、引き続き井上氏にお話を伺っていく。
(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト)
[日経Gooday2022年8月9日付記事を再構成]
