
この時期にぜひ味わいたいのが「上海蟹の姿蒸し」。秋口の9月から翌年の2月までの時期にしかありつけないメニューだからである。一般的な店より上海蟹の姿蒸しを提供する期間が長いというのも、食通にはうれしい。メスは何と言ってもオレンジ色の卵が絶品。一方、オスは濃密な白子や蟹味噌がたまらない。オス・メスの見分け方は簡単で、甲羅の裏側部分が丸いのがメス、三角形なのがオスだ。
「澄んだ湖の味がする」氷結蟹
せいろに入れて、運ばれてきた蟹は甲羅がつやつやとオレンジ色に照り輝く。食べ慣れているなら、自分でほぐして食べたいという人もいるだろう。そうでなくても心配はいらない。お店のスタッフがはさみ片手に手際よく、食べやすいよう皿に盛り付けてくれるからだ。その手作業を眺めながら、スタッフと上海蟹談義を交わすのも楽しい。
蟹の身はオスの方が筋肉質で、メスより甘さが強い。何もつけず蟹本来の味を楽しむのも良し、ショウガ入りの黒酢にちょっとつけて味わうのも良し。極上の素材の味をしっかりと感じることができるはずだ。

上海蟹といえば、蒸したものや、紹興酒漬けにしたものを思い浮かべる人が多いかもしれない。だが、ちょっと意外な食べ方がこの店では体験できる。「蟹王府 特製氷結蟹」(一皿3850円)である。100パーセントの塩水に蟹を生きたまま4時間漬けて殺菌。その後、ミネラルウオーターで塩水を洗い流し、自家製の調味料に1日漬けマイナス40度で瞬間冷凍させたものが、一口サイズにカットされて出てくる。口に含むと冷たい蟹の身や味噌がとろけ、官能的な味わいが口内に広がる。「これを召し上がった方は、よく『澄んだ湖の味がする』とおっしゃいます」と野坂支配人。なるほど、確かに言い得て妙な表現である。