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人生の転機をチャンスに ウーマン・オブ・ザ・イヤー

クラシコム・佐藤友子さん 竹下製菓・竹下真由さん

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NIKKEI STYLE

女性誌「日経ウーマン」(日経BP)が選んだ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2023」の受賞者2人は、人生の転機を思い切った決断力と行動力でチャンスに変え、事業に生かしてきた。

面白そうなことに素直に クラシコム取締役・佐藤友子さん

大賞に決まったのは、インテリア雑貨や衣料品などを取り扱う電子商取引(EC)サイト「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムの取締役、佐藤友子さん(46)だ。

06年に兄と同社を創業。ECサイトの店長として商品やコンテンツを統括する。動画配信やSNS(交流サイト)など、多様なチャネルを通じてECの魅力や世界観を発信。ファンを増やし続けていることなどが評価された。

キャリアのスタートから、順風満帆だったわけではない。高校卒業後はアルバイトなどで職を転々とし、20代前半は兄や友人らとバンドを組んで活動。何事にも飛び込み挑戦する一方、何をやっても長続きせず、やりたいことが見つからない自分に悩んだ。

28歳で結婚した後、インテリア事務所に就職。インテリアコーディネートの仕事の傍ら、兄に誘われて不動産系の会社を創業した。だが「二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず」ということわざがあるように「自分も何か1つに絞らなければ」と、焦っていた。

「人生なんて二兎でも三兎でも追っていい」。30代を迎える前、父が何気なくかけてくれた言葉に救われる。「欲張っても構わない。自分らしく人生を切り開くべきだ」と、気持ちを切り替えた。

30歳の時、夫の出張に同行し訪れたスウェーデンで、北欧の働き方やライフスタイルに感銘を受けたことが人生の転機となった。古い工場を改装したセンスのよいオフィス。人々は朝8時頃出勤し、午後5時には帰宅する。残業をする人はおらず、帰宅後は皆、キャンドルをともして家族と過ごしていた。

肩肘はらず自然体で「おしゃれ」に暮らす北欧の人々を目の当たりにし「同じ地球、同じ時代に生きているのに日本ではできていないことに悔しさを覚えた」。日本でも見習うことはできないか。北欧で感じた価値観をモノを通じて日本の顧客と共有したいと考えたという。

同じ年に今度は兄と北欧へ。当時日本でも流行していたビンテージ食器をECで販売する案を思いつく。クレジットカードの限度額まで食器を買い込み、日本で販売し始めた。これが「北欧、暮らしの道具店」の出発点となった。

次第にファンが増え、事業も軌道に乗ってきた。開店から11年目の18年に始めたのがオリジナルドラマ「青葉家のテーブル」だ。動画共有サイト「YouTube」で、ドラマを通じてECの魅力や世界観を発信する。ほかにも写真共有アプリ「インスタグラム」やインターネットラジオなど多様な手段でファンとのつながりを構築している。「単にモノを売りたいのではなく、心の交流のような場を提供したい」と力を込める。

創業時から自己資金のみで仕入れからサイト運営までを賄い事業を拡大してきた。8月には東証グロースへの上場も果たした。今後はリアルな交流の場や物販以外の事業にも手を広げていきたいとの構想を描く。佐藤さんは「面白そうなことに対しては素直に」をモットーに、これからも挑戦を続けていく。

事業承継を念頭に人生設計 竹下製菓社長・竹下真由さん

創業120年以上の菓子メーカー竹下製菓(佐賀県小城市)の5代目社長、竹下真由さん(41)は、6年前に同社を継いだ。新卒での入社企業やパートナー選びなど、事業承継を念頭においたライフプランニングと、前職での経験を生かした経営改革が注目を集めている。

高校生の頃から、家業を継ぐ決意を固めていた。進学先の東京工業大と同大学院では経営工学を専攻。企業経営の分析などを学んだ。「限られた時間に最大の経験を積む」ことを目的に、新卒で就いたのはアクセンチュアのコンサルタント。担当企業の成長に伴走し、データに基づいた経営の知見を得た。

アクセンチュア時代には、共に佐賀へUターンをしてくれるパートナー探しにも注力した。出会った同期入社の夫は広島出身だったが佐賀への移住を受け入れてくれた。「互いの得意・不得意を補いつつ、仕事と家庭の両方で頼りになると思った」

結婚と同時に佐賀県へ戻り、竹下製菓に入社。同社の主力はアイスバーの「ブラックモンブラン」だ。バニラアイスをチョコとクッキークランチでおおった商品は、九州で根強い人気を誇る。だが全国的な知名度の低さとブラックモンブランに頼りすぎている現状に課題を感じていた。入社6年目に社長に就任すると、コンサルタント経験を生かし、経営改革を進めていく。

その1つが販路の拡大だ。関東地方のスーパーマーケット「サミット」など取扱店を増やし、九州圏外での売り上げを着実に伸ばしていった。さらには製パン会社の清水屋食品(岡山市)を子会社化。季節に左右されないパン事業を新たな収益の柱にするなど、事業の多角化に取り組んだ。

従業員のマネジメントでも前職の経験が生きた。アクセンチュアでは「会議で発言しないのは、その場にいないことと同じ」。その経験から、誰もが自由に発言できる雰囲気づくりを徹底。年一度の経営発表会では、社員全員に発言する場を設けた。

一方で「地方企業ならではの温かい雰囲気は守りたい」。面談で社員の個性や希望を把握し、働きやすい環境づくりに注力した。数々の改革が奏功し、グループ全体の21年3月期の売上高は社長就任前と比べて2倍以上になった。

九州でもジェンダーバイアスは課題だが、女性経営者は増えつつある。「自身の経験や考えを発信しつつ、女性管理職や役員が増えるメリットを伝えていきたい」との思いも日々強くしている。

カギは決断力と行動力

若いときはやりたいことがなかなか見つからず悩んでいた佐藤さんと、10代で家業を継ぐ決心をしてライフプランを立てた竹下さん。

佐藤さんは旅行先の北欧で「人生が変わるかも」と感じたといい、当時普及していなかったECへの挑戦を決断した。綿密な人生設計で事業承継を実現した竹下さんは販路拡大やM&A(合併・買収)で、後継者難とされる地方企業を成長させてきた。人生の転機における行動力と決断力の高さが、それぞれの事業を成功に導いていったのだと感じた。
(加藤彰介、荒牧寛人)

[日本経済新聞朝刊2022年12月19日付]

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