日経ナショナル ジオグラフィック社

産業活動が残した爪痕が修復されるには何十年もの月日が必要だ。しかし産業用地のなかには、サリーナ・トゥルダのように修復不可能なほど変えられてしまった場所もある。そこで地球の限りある資源を守るには、別の目的のために再利用することが重要になってくる。

スプレッダーとも呼ばれるフェロポリスの1200トンの重機「メデゥーサ」。1959年に造られ、ドイツの露天掘りで使われていた。炭鉱の閉鎖後は新たに展望デッキが取り付けられ、見学者は階段かエレベーターで昇って、上からの景色を楽しむことができる(Photograph by Luca Locatelli)

環境リスクを伝える

汚染された環境でさえも、産業活動の環境リスクを伝える遺物として「再利用」ができる。その一例としてロカテッリ氏は「フェロポリス」を撮影している。フェロポリスとは、ドイツの都市グレーフェンハイニヒェン近郊にある露天掘りの炭鉱跡だ。地表は洗浄されコンクリートで覆われているが、石炭産業が環境にもたらした影響は否定できない。

「メルト」はフェロポリスで最大のイベントの1つだ。参加者は巨大重機の下で踊り、自然と機械の両方がある空間を楽しめる(Photograph by Luca Locatelli)

ロカテッリ氏の写真に写るのは、かつて地球の資源を採取した巨大な重機群の周りで、色とりどりのライトに照らされて踊る人々だ。あたかも番兵のようにそびえ立つ掘削機は、この土地が炭鉱だった名残だが、同時に環境に優しい未来への願いを込めたモニュメントにも見える。

写真の左に写るのはフェロポリスの「ピンポン」ステージの一部。ここでさまざまなパフォーマンスが繰り広げられる中、人々はテクノミュージックに合わせて踊る。後方にあるのは、巨大重機群の中では一番小さい「モスキート」(Photograph by Luca Locatelli)

(文 Maya Wei-Haas、訳 三好由美子、日経ナショナル ジオグラフィック)

ナショナル ジオグラフィック日本版 2022年12月16日付